大学院入学式 式辞 (2007年4月6日)

尾池 和夫

尾池総長本日、京都大学大学院に入学した修士课程2,202名、専门职学位课程337名、博士(后期)课程869名の皆さん、入学おめでとうございます。ご列席の副学长、研究科长、研究所长、教职员とともに、皆さんの入学を心からお庆び申し上げます。

皆さんは学问の道をさらに究めんとして、また新しい问题を提起し、悬案の问题の解决に挑戦しつつ、さまざまの学问领域へ、さらなる一歩を踏み出すために进学されました。あるいは、今までの学习や研究とは异なる方向へ、自ら転换をはかるために进学された方もおられることでしょう。また、専门の分野で高度の知识を持って、国际的に活跃するために进学された方もおられます。いずれにしても新たな飞跃を求めて、大学院における学习と研究の道へ进まれたのです。くれぐれも心身の健康に留意され、総合大学の特长を活かして、可能な限り幅広く知识を身につけながら、京都大学での学园生活を楽しみつつ、学问を深めていただきたいと思います。

大学院设置基準に定められている大学院の课程は、「修士课程」「博士课程」「専门职学位课程」の3种であり、博士课程は、前期2年と后期3年に区分するものと、后期3年のみの课程のもの、区分を设けないもの、4年制博士课程などがあり、博士课程のうち前期2年に区分された课程は修士课程とみなすことになっているというように、大学院にはさまざまの形态があります。専门职学位课程もそれぞれの分野ごとにその课程が定められており、皆さんはそれぞれの道を选んで进学してこられました。京都大学はそれらの课程で、皆さんが学习と研究を力一杯进めていけるように、キャンパスの整备に努めています。

4月の初めには日本学術会議の総会が開催されます。日本学術会議は、アメリカ合衆国のナショナル?リサーチ?カウンシル(NRC)をモデルとして、 1949年に設立されました。そのころ、南極地域観測への参加、原子力利用の平和三原則、霊長類研究所の設立などを提言して、それらが政策に反映されました。いずれも京都大学の諸先輩たちが深く関わりながら、それらの提言をまとめてきたものであります。南極観測は1957年に始まり今年で50周年を迎えました。京都大学の原子炉実験所は1963年に設置され、霊長類研究所は1967年に設置されて今年で40周年になります。

会場の様子その後は、各省庁が審議会方式を強化したりして日本学術会議の発言力は低下しましたが、行政改革の一部として大改革が行われ、2005年4月2日に「日本の科学技術政策の要諦」を発表し、現在の日本社会の歴史的背景、2050年への国家ビジョン、それに至る2020年への政策ミッションを示しました。 2050年を目標とする、品格ある国家、アジアの信頼の構築、3つの目標ミッション、10の主要課題など、日本学術会議の提唱をよく読んで皆さんにもその課題を考えてみてほしいと思います。

21世纪の地球共通课题は「地球环境劣化」、「人口増加」、「南北格差拡大」であり、国家ビジョンの目标ミッションを、人类社会の「持続可能性サステナビリティ」であるとしています。この课题に対し「环境と経済の両立」の具现化を通して、国家ビジョンを达成するとしています。国家の根干は「人づくり」であるとして、科学と科学技术の戦略的活用と一体的に、次代を担う人材の育成を进めることは最重要事项であると、この要諦に示されました。

目標ミッションの主要課題は、1)教育の改革、2)民主社会の実現、3)共生社会の実現、4)国の安全保障の確保:安全と安心、5)健やかに生きる社会基盤、6)産業、経済、労働と雇用政策、7)自然との共生、自然の再生、8)国土と地域の再生、9)情報?通信システム整備、 10)エネルギーと環境であります。

皆さんの中には科学者としての道を選ぼうとしておられる方も多いと思います。その方たちには、朝永 振一郎博士の詩を紹介したいと思いました。「ふしぎだと思うこと/これが科学の芽です/よく観察してたしかめ/そして考えること/これが科学の茎です/そうして最後になぞがとける/これが科学の花です」

これは科学の花を咲かせた朝永博士の実感から生まれた言葉ですが、皆さんもこの言葉の通りの体験を、これからの長い時間をかけた根気強い努力と、強い運と、持って生まれた才能の効果的な運用で、きっと実感されることになると思います。そこでは、どんなことであっても、まずその分野の第1人者になることを目指さなければなりません。例えば、京都大学と言えば自由の学風、自由の学風と言えば京都大学と言われるように、自分の氏名と自分が専門とする分野が1対 1に対応するようになることを目指して学習と研究を進めてください。

京都盆地は活断层运动によって形成された盆地で、京都大学の吉田キャンパスの东にある吉田山の西の麓は、花折断层で上下にずれる场所です。私は学部の新入生を案内して、毎年4月にはこの花折断层を歩きます。今年は1927年3月7日の北丹后地震から80年です。また、1707年、南海トラフに起こった超巨大地震である宝永地震から300年です。早ければ2030年顷起こる次の超巨大地震に备えて、地球のことを一绪に考えながら歩きます。

竹やぶ宇治キャンパスは黄檗断层に沿っていて、その运动で下がる地盘にあります。桂キャンパスは、西山断层で上がる地盘にあります。そのような活断层の破砕帯に沿って、昔の人たちは地盘が崩れないように孟宗竹を植えました。桂にも山科にも竹林ができましたが、杉や檜の人工林と同じように、最近は手入れが行われないために、防灾や环境に関わるこれからの大きな课题を私たちに与えています。

竹と言えば上田 弘一郎、上田 弘一郎と言えば竹という先生が京都大学におられました。農学部に演習林を導入して、1949(昭和24)年に演習林の初代専任教授となった上田 弘一郎先生は、資源として竹類の重要性に着目して、各専門分野の研究者を結集し、竹の生理生態的特性や、繁殖、育成に関する研究を進めたと演習林の歴史に記されています。

竹は、イネ科タケ亜科に属する多年生常緑草本植物で大型のものの総称と言われますが、タケ科とすることもあり、竹を草本(そうほん)とするか木本(もくほん)とするかの議論もあります。要するに何をもって木とするかという議論です。年輪ができる植物を木本類、できない植物を草本類と定義する場合や、木とは、厚くなった細胞質を持つ死んだ細胞により生体が支持されている植物であるという見方もあります。竹は「連続的に成長」しないので「草」であるというか、後者の定義に従うと、「死んだ細胞で支持されている」ので「木」と言うことになるかですが、上田 弘一郎先生は『竹は木のようで木でなく、草のようで草でなく、竹は竹だ』と力説しておられたそうです。その分野の第1人者になるとこのような発言が歴史に残ります。

筍この部分を书くために骋辞辞驳濒别で「竹の専门家」と入れて検索したら、私の书いた「竹と笋と桂キャンパス」という题のエッセイが最初に出てきて、久しぶりに自分のエッセイを読みました。それによると、

「笋は同じ根の竹のクローンである。节の数は根のつながる竹で同じになる。笋の皮の一枚につき、节が一つできるから、笋の皮の数と横の竹の节の数が同じだということになる。笋は竹の分身であり、地下茎から芽を出して、自分の分身を作る。笋の栄养は亲の竹からもらう。
何十年に一度かは、竹は花が咲いて枯れてしまうが、そのとき遗伝子を交换する。それまでは、同じ遗伝子を持つ竹と笋が広い地域に分布しているので、ある年は一斉に笋が豊作だったり、日本から移植した竹の林が、日本の竹と同じ年に花を咲かせたり、さまざまな不思议な现象が起こって话题になったことがある」
と书いてあります。

日本には、マダケ、モウソウチク、ハチクと数百种类の竹がありますが、その多くは帰化植物でほとんど中国原产です。竹は、気候が温暖で湿润な地域に生息し、アジアの温帯から热帯地域に多く分布します。中国でも东南アジアでもビルの建设现场の足场が竹で组まれている光景をよく见ます。一部の竹は周期的に开花して、一斉に枯れることがあります。マダケの场合は120年周期であるという推定もあります。竹は成长力が强く、早いときには1日で1メートル以上成长することがあります。四川省ではジャイアントパンダが竹を主食としています。1976年の四川省と云南省の境界付近で大规模な地震が発生したとき、四川省の森林では竹の花が咲いて枯れ、ジャイアントパンダの食粮が不足して、被害が出ているという报告があり、四川省の友人からパンダの死骸の写真をもらいました。

竹は一つの例ですが、最初に紹介した日本学術会議があげた、これから21世紀の課題のさまざまの場面でこの竹が登場し、そのとき上田 弘一郎先生の業績が思い起こされることになるでしょう。今週の初め、桂キャンパスで、手入れが行われずに密集した竹林を見ながら、私も地震の研究者として、竹の存在に注目して、いろいろのことを考えました。

研究はおもしろいから続けるのですが、人びとが何を知りたいと思っているかを知っていて研究を进めることも、大学院で研究する场合に大切なことの一つです。研究者として论文を発表するだけではなく、その研究成果を市民にもわかりやすく伝えながら、また自らも社会贡献の一端を担うのだということに心を配りながら、大学院での学习と研究を行ってほしいと思います。常に広い视野を持ち続けることを心がけ、国际社会に贡献する人材であることを心がけていただきたいと思っています。

今、総合博物馆では、地理学教室100年を记念して、特别展「地図出版の400年-京都?日本?世界-」を开催しています。地図を通していろいろの时代の世界観に触れることができます。京都大学の豊かな知财の蓄积を精一杯活用しながら学习や研究を进め、皆さんが21世纪の国际社会の中で、元気に活跃されるようになることを祈って、私のお祝いの言叶といたします。

大学院入学、まことにおめでとうございます。