尾池 和夫
2007年度に京都大学に新しく设置された「こころの未来研究センター」の设立记念のシンポジウム开催にあたって、京都大学を代表してお祝いを申し上げます。
本センターは、文系とか理系というような垣根を越えた融合研究センターであることを、まず第1の特长としています。こころのはたらきを、からだ、きずな、生き方、という3つの领域あるいは视座から、総合的に教育研究活动を行う场であります。学内の连携、地域の関连组织との连携、海外研究机関との连携というような、多様な连携を基础として教育と研究と社会贡献という大学の持つ基本的な役割を果たし、その研究成果を基にした知财を、インターネットや公开讲座の开催、出版などを通して、広く社会に発信してゆくことを目指しています。
このセンターのミッションは、心理学、认知科学、脳科学および人文科学等を含めたこころの総合的研究拠点として、こころに関する多角的な研究を推进し、地球化时代を生きる人のこころのあり方や人间像についてのビジョンを描き出すことを目指しています。
本センターでは、こころとからだ、こころときずな、こころと生き方の3领域にかかわる教育と研究を重点的に実施するとともに、领域を繋ぐ融合研究の枠组みを构筑し、现代社会に顕在化しているこころの问题に対する本质的な解决策を提言します。
また、公共机関や公司などとの连携を通して、本センターの研究?教育机能を地域社会の期待や要请に対応しうる形で充実させ、研究成果を広く社会に还元することによって、こころについての科学的知识の普及に贡献します。
さらに、国内外の研究者コミュニティーに开かれた研究拠点として、国内研究机関および海外研究机関の研究者や専门家の间の相互交流をも积极的に推进します。
センターの研究活动として、こころとからだ、こころときずな、こころと生き方、の3领域にかかわる研究プロジェクトを実施します。
「こころとからだ」の领域では、身体や行动とこころの働きとの関わりに注目し、脳科学から临床心理学に至る多角的なアプローチで、こころの表象と身体性についての研究を行います。具体的には、注意?意思决定を制御する脳内机构の分析、「メタ认知」の発生のしくみや自己モニタリングのしくみの分析、感情制御并びにその発达过程の分析、発达障害に対する心理疗法の実践によるこころの働きの解明、内科疾患と心理疗法からみた、こころと身体の関係などの研究を行います。
「こころときずな」の领域では、人のもつ社会的知性の特徴や、その成熟过程の解明を目的として研究を行います。とくに、表情、音声、しぐさなどによる対人相互行為の基础となる心のしくみ、他者に関心をもち、他者の行动や感情を理解する心のしくみ、自尊心、爱他心、伦理感、协调性といった高次の社会的感情や、それらに基づく行动の発现?调整のしくみなどを明らかにすることが课题です。発达心理学、文化心理学、临床心理学など多様なアプローチで连携?融合研究を実施します。
「こころと生き方领域」では、现代社会における伦理観?死生観および自己意识?他者意识のあり方を、歴史的、文化的背景を考虑しつつ分析することを目标とします。これらはいずれも、こころの中にビジョンが生まれる働きに関わっており、これがまさに、こころの未来を扱う领域といえます。具体的には、先端技术社会や现代医疗における伦理観?死生観の研究、伦理问题における共通概念の分析、身体疾患を抱える患者やその家族の生き甲斐感に関する研究、少年犯罪などに现れる、解离する自己意识のあり方の分析等を行ないます。
このセンターは、もともと「京都文化会議」での議論の中から、関係者のご協力で生まれてきたものと、私は思っています。この「京都文化会議」は、文化庁、京都大学、財団法人稲盛財団、京都府、京都市、京都商工会議所、国際日本文化研究センター、財団法人 関西文化学術研究都市推進機構、財団法人大学コンソーシアム京都、京都新聞社、NHK京都放送局などで構成する京都文化会議組織委員会が主催して開催してきました。
京都文化会议2004では、「地球化时代のこころを求めて」の闭会の辞で、かつて京都大学が生まれたころ、小泉八云の小品集「心」が书かれ、夏目漱石の「こゝろ」が出版されたことを话しました。この漱石の「こゝろ」は英訳されてもその题名は「碍辞办辞谤辞」でありました。そして、「京都の地で21世纪のこころを求め続けていけるよう愿っています」と话し、「京都大学においても、この贵重な议论の成果を引き継いで、さらに议论を続けながら、その精神を定着させる场所を育てていきたいと考えております」と発言しました。
京都文化会議2005では、会議の成果を残す一つとして京都賞に関連する資料館か博物館ができるといいということと、"kokoro"を世界の言葉にするために、こころの未来を永続的に研究する新しいしくみを持ちたいと思っているということを話しました。京都文化会議2006でも、最終日のまとめの会場の最前列で稲盛和夫さんと出席し、まとめの挨拶として、こころを研究するための新しい研究センターというような形を創りあげようとしていますと話しました。ちなみにGoogleで「Kokoro」と入れて検索しますと、2,740,000、そのうち、日本語以外のサイトもかなりたくさんあるようです。同じく、画像を検索すると42,600件でした。Kokoro という単語はさまざまの形に使われています。これを育てていくことが、私は大切なことだと思っています。
そのような议论の积み重ねで、ようやくここに研究センターの设立を记念してのシンポジウムが开かれることになり、たいへんうれしく思っています。ただ、今回の研究センターの设立は、新しい国立大学法人のしくみの中で、学内の持ち驹を精一杯やりくりして立ち上げたものであり、决して研究者たちが议论してきた内容を盛り込むために十分な规模のものではなく、今后さらに充実していくことが必要であります。国の财政事情が厳しく、大学の建物が老朽化し狭隘化した状态がなかなか解消できない现状の中で、たいへん幸いなことに研究センターの设立に必要な场所が、财団法人稲盛财団のご协力で确保できるようになりました。また、规模が大きくなくても、これから研究センターを维持し発展させていくためには多くの财源を必要とします。そのためにも新しいしくみを大学として考えていかなければなりません。
新しい研究センターの设立によって、また新しい知の蓄积が期待できることになりました。センターを构成する教员を中心として、新しい分野に挑戦される方々のご活跃に期待し、京都大学の教育、研究、社会贡献の幅が拡がることを期待し、今后とも皆様方のご理解とご协力をお愿いして、私のお祝いの言叶といたします。
「こころの未来研究センター」设立、まことにおめでとうございます。