磁石を使ったメモリに道:磁壁の电流による移动の要因を解明

磁石を使ったメモリに道:磁壁の电流による移动の要因を解明

2011年2月21日


左から千叶助教、小山氏、小野教授

 小野輝男 化学研究所教授は、小林研介 同准教授、千葉大地 同助教、同大学院生の小山知弘氏、上田浩平氏、近藤浩太氏、仲谷栄伸 電気通信大学教授、日本電気株式会社との共同研究で、強磁性ナノ細線における磁壁移動の閾値を決める要因が、電流と磁場で全く異なることを発見しました。磁気記録デバイスの低消費電力化と記録密度向上への寄与も期待できる成果であり、応用上の観点からも特筆すべきことです。この成果は、英国科学誌Nature Materials誌に2011年2月20日にオンライン公開されました。

研究の概要

 強磁性体の磁区と磁区の境界を磁壁と呼びます(図1)。磁壁はナノスケールの磁化のねじれ構造で、これを電流で移動させることが可能であることを京都大学グループが2004年に示しました(Phys. Rev. Lett., 92 (2004) 077205)。その後、この現象を利用した新規メモリ素子がIBMやNECにより提案されました(図2)。これらの新規メモリは、半導体メモリを凌駕する大容量性?高速性?低い消費電力を兼ね備えた廉価な不揮発性磁気メモリとして期待されています。これまで精力的な研究が行われてきましたが、情報保持の安定性と低消費電力化を両立するのは困難と考えられてきました。

 研究チームは、コバルトとニッケルを积层した强磁性薄膜を40-300ナノメートルの幅の细线に加工し、细线中の磁壁を电流や磁场で駆动する実験を室温で行いました。磁壁が电流や磁场で动き出す閾値を、閾电流、閾磁场と定义します。閾磁场は细线エッジの凸凹や欠陥などの外因的な要因(外因性ピンニング)で决まります。研究チームは、閾电流が閾磁场とは无関係に决まっていること、閾电流が外部磁场に依存しないこと、を明らかにしました(図3)。これらの结果は、电流と磁场による磁壁駆动机构が全く异なることを意味します。磁壁内部の磁化は电流によりトルクを受けますが、トルクにより磁壁の构造が周期的に変化しならがら磁壁全体が移动します(図4参照)。閾电流は、この构造変化を引き起こすために乗り越えなくてはいけないエネルギー障壁(内因性ピンニング)に依存していると考えることができます。详しい実験により、閾电流が细线幅に対して极小を示すことが分かりました(図3)。実际、閾电流が极小値を示す细线幅前后で磁壁の安定构造が切り替わることが実験的に証明され、閾电流が极小を示す细线幅では両磁壁构造のエネルギー差も极小となっていることが明らかになりました。

 実用面からは、细线幅や膜厚などを制御することによりさらなる閾电流の低减が期待されます。また閾电流と閾磁场に相関が无いことから、高い閾磁场をもつ热安定性の高い素子においても低电流で磁壁を駆动できると考えられます。閾电流値が外部磁场に依存しないことも大きな利点であり、高い外部扰乱耐性と安定动作を兼ね备えた、低消费电力な素子の実现が期待されます。これにより、不挥発性磁気メモリ开発に大きな进展をもたらすと期待されます。

 本研究の一部は、新エネルギー?产业技术総合开発机构(狈贰顿翱)「スピントロニクス不挥発性机能技术プロジェクト」によって支援されました。

   

  1. 図1:磁壁の概念図。磁壁内部では磁化がねじれた构造をとっている。スピン偏极した伝导电子(スピン偏极电流)を流すと、磁壁内部の磁化はトルクを受け、磁壁全体が电流と逆方向(伝导电子の流れの向き)に移动する。

    

  1. 図2:(左)滨叠惭と(右)狈贰颁によって提案された电流による磁壁駆动を用いた不挥発性メモリの概念図。滨叠惭の提案したメモリはレーストラック型メモリと呼ばれ、0と1の情报が书き込まれた磁性细线中の磁壁を电流で駆动して所望のデータを読み出す手法を用いる。狈贰颁により提案されたメモリは中央の磁化方向を电流磁壁駆动によりスイッチさせデータを书込む。
    摆参考文献闭
    (IBM):Parkin, S. S. P., Hayashi, M. & Thomas, L. Magnetic domain-wall racetrack memory. Science 320, 190 (2008).
    (NEC):Fukami, S. et al. Low-current perpendicular domain wall motion cell for scalable high-speed MRAM. 2009 symposiumon VLSI technology. Digest Tech. 24 Pap. 230 (2009).

    

  1. 図3:(左)閾電流密度と閾磁場の細線幅依存性。閾電流密度は閾電流密度とは全く異なる細線幅依存性を示す。閾電流密度は細線幅が76 nm付近で極小値を示す。前後で磁壁の安定構造がネール磁壁からブロッホ磁壁へ切り替わっていることが別な実験より確かめられた。つまり、磁壁の安定構造が切り替わる細線幅では、内因性ピンニングも極小になる(図4参照)。(右)閾電流密度の外部磁場依存性。閾電流密度は外部磁場に依存しないことが分かる。

    

  1. 図4:磁壁の内部构造(ブロッホ磁壁とネール磁壁)の概念図。磁壁が电流でトルクを受けて移动するとき、磁壁の内部构造はブロッホ→ネール→ブロッホ→…と周期的に変化する。閾电流は両者のエネルギー差に依存し、それを内因性ピンニングと呼ぶ。本成果は、実験的に、内因性ピンニングと閾电流の関係を明らかにしたものである。

 

関连リンク

  • 论文は、以下に掲载されております。
  • 下记は论文の书誌情报です。
    Koyama T, Chiba D, Ueda K, Kondou K, Tanigawa H, Fukami S, Suzuki T, Ohshima N, Ishiwata N, Nakatani Y, Kobayashi K, Ono T. Observation of the intrinsic pinning of a magnetic domain wall in a ferromagnetic nanowire. Nature Materials 2011 Mar;10(3):194-197.

 

  • 京都新聞(3月15日 9面)に掲載されました。