2011年2月28日
北川教授
京都大学(松本紘 総長)の研究グループは、財団法人高輝度光科学研究センター(以下JASRI)との共同研究により、選択的な分子の取り込みが可能な半導体ナノチューブを作製することに成功しました。これは、北川宏 理学研究科教授および大坪主弥 同研究員らによる研究成果です。
活性炭やゼオライトに代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物质であり、物质内部に多数の小さな穴(细孔)を有することから「多孔性物质」と呼ばれています。最近では、活性炭やゼオライトに比べて高いガス選択吸着性を示す「多孔性金属錯体」が高効率分離?濃縮機能を有する多孔性物质として注目され、第3の多孔性材料として世界中で研究開発が進められています。他方、カーボンナノチューブは、その导电性や高い耐久性から电子デバイス材料への応用が进められていますが、最近では内部にナノメートル(10亿分の1メートル)サイズの细孔を持つことから吸着剤としての応用も期待される物质です。しかし、カーボンナノチューブは高温(1000℃以上)を必要とするその作製法が原因で、サイズや形状を制御することが困难でした。
今回、上记研究グループは、金属イオンや有机分子からなる金属错体をパーツとして组み上げるボトムアップ法に着目し、対角方向の直径がおよそ1.5苍尘で形状が完全に揃ったナノチューブを室温下で合成することに世界で初めて成功しました。このナノチューブは、内部に细孔を持っており、水やアルコールといった蒸気を选択的に取り込む机能を持つことがわかりました。さらに、この物质は半导体的な性质を示し、构成要素を组み替えることによってその电子的性质を幅広くコントロールできることも分かりました。
以上の研究成果は、多孔性材料を用いた新しいセンサー材料や电子デバイスとしての応用につながることが期待されます。
なお、本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」における研究課題「錯体プロトニクスの創成と集積機能ナノ界面システムの開発」(研究代表者 北川宏教授)の一環として、また大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8の利用研究课题として行われたものです。
本研究成果に関する原著論文は、英国科学誌「Nature Materials」のオンライン版に平成23年2月27日18時(英国ロンドン時間)に掲載されました。
研究の背景
物質内部に無数の細孔を有する「多孔性材料」と呼ばれる物質は、その細孔内に分子を取り込んで吸着する性質を持つことで注目され、古くから盛んに研究が行われてきました。内部にナノメートルサイズの細孔を持つことで知られるカーボンナノチューブも多孔性材料の一つですが、カーボンナノチューブは分子を取り込む能力だけではなく、その導電性や高い耐久性から、エレクトロニクスなどの機能性材料への応用が期待されている物質です。しかし、カーボンナノチューブを作製するには黒鉛を放電やレーザーで1000℃以上に加熱し蒸発させたりする必要があり、チューブのサイズや形状、そして性質を精密に制御し作製することが非常に困難でした。近年、新しい多孔性材料として金属イオンと有機分子を用いたボトムアップ法により生成する多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)が注目を浴びています。これらは従来の多孔性材料に比べて高い空隙率や結晶性を有していて、さらには設計性や物質群としての多様性にも優れており、細孔のサイズ、形状、性質だけでなく物質の安定性なども構成要素(パーツ)となる金属イオンや有機分子を組み換えることによってコントロールすることができるという大きな特徴を持っています。
研究の内容
本研究では、新しい多孔性のナノチューブの作製法として、図1に示すように、金属イオンと有机分子からなる金属错体をパーツとして用い、望みの构造に组み上げるボトムアップ法に着目しました。白金イオン(笔迟2+)と4,4’ビピリジン、エチレンジアミンから构成された一辺がおよそ1苍尘の正方形状の金属错体とヨウ素を室温で反応させたところ、正方形状の金属错体がヨウ素を介してつながった四角柱状のナノチューブの作製に成功しました。単结晶齿线结晶构造解析を行うことで、対角方向の直径がおよそ1.5 nmの内細孔を持つナノチューブの構造を決定できました(図2)。作製直後のナノチューブには細孔内に大量の水分子が取り込まれていますが、大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8における齿线吸収微细构造の测定から、细孔内の水分子を全て取り除いてもナノチューブは壊れずに安定に存在していることが明らかになりました。
次に、细孔内の水分子を取り除いたナノチューブをさまざまなガス分子の蒸気にさらしたところ、水やアルコールの分子は取り込まれるのに対して、窒素や二酸化炭素の分子は取り込まれていませんでした(図3)。また、紫外可视吸収スペクトル测定から、このナノチューブは半导体材料として知られるシリコンより低いバンドギャップを持つ半导体であることが分かりました。さらに、外気の湿度を変化させたり、ナノチューブのパーツをヨウ素から臭素や塩素などに変えて作製したりすることで、バンドギャップの大きさを连続的に変化させられる性质があることも分かりました。
今后の展开
本成果は、(1)基础面、(2)応用面の両方において大きな波及効果が期待されます。
(1)ナノチューブ状の物质の作製はこれまでに多くの研究例があるものの、カーボンナノチューブの例を除き、ガス分子の取り込みや电子的な性质について议论された研究例はありませんでした。本研究ではボトムアップ法を駆使した形状の整った多孔性のナノチューブ作製法を示しただけではなく、そのガス分子の取り込みや电子的な性质を详细に明らかにすることに成功したと言えます。
(2)本研究で得られた多孔性ナノチューブは、内部の细孔にさまざまな分子を选択的に取り込む机能を持っているだけでなく、半导体としての性质も併せ持っています。さらには湿度の変化や构成要素の组み换えによりその性质を大きく変えることもできます。これらの性质を用いることでガス分子に対して敏感に応答するセンサー材料や、化学的なドーピング処理により电导性をコントロールすることで、ガス吸着能と导电性を併せ持つ新たな多机能电子デバイスへの応用につながることが期待されます。
参考図
- 図1 ボトムアップ法を用いたナノチューブの作製。
四角形型の金属错体とヨウ素の反応から、四角柱型のナノチューブが生成する。
- 図2 単结晶齿线结晶构造解析により明らかになったナノチューブの構造。
図1で示した反応から、想定したナノチューブが组み上がっていることが分かる。図中において白金はオレンジ色、ヨウ素は紫色、窒素は青色、炭素は灰色で示してある。
- 図3 得られたナノチューブのガスの取り込みの様子。
水(赤色)、メタノール(青色)、エタノール(緑色)の分子の吸着量はガスの蒸気圧とともに増加し、これらの分子がナノチューブ内に取り込まれていることが分かる。一方の、窒素(オレンジ色)は全く取り込まれていない。
论文名と着者
“Bottom-up Realization of a Porous Metal–organic Nanotubular Assembly”
(多孔性のナノチューブ集合体のボトムアップ実现)
Kazuya Otsubo, Yusuke Wakabayashi, Jun Ohara, Shoji Yamamoto, Hiroyuki Matsuzaki, Hiroshi Okamoto, Kiyofumi Nitta, TomoyaUruga and Hiroshi Kitagawa
Nature Materials, 2011, DOI: 10.1038/NMAT2963
関连リンク
- 论文は、以下に掲载されております。
- 京都新聞(2月28日 22面)、中日新聞(2月28日 28面)、日刊工業新聞(2月28日 27面)および日本経済新聞(2月28日 11面)に掲載しました。