せっけんに学ぶ高分子太阳电池高効率化の原理の解明 -新概念の「色素増感高分子太阳电池」の実現に貢献-

せっけんに学ぶ高分子太阳电池高効率化の原理の解明 -新概念の「色素増感高分子太阳电池」の実現に貢献-

2011年4月27日

京都大学
科学技术振兴机构(闯厂罢)

 JST 課題解決型基礎研究の一環として、大北英生 工学研究科准教授らは、色素増感を用いた高分子太阳电池の高効率化を実証するとともに、その原理を世界で初めて解明しました。

 有機薄膜太陽電池の一種である高分子太阳电池は、現在主流である結晶シリコン系太陽電池よりも製造が簡単で低コスト化につながるため、次世代太陽電池として注目されていますが、変換効率が低い(~8%)ことが大きな課題です。高効率化の障壁としては、利用できる光が可視光領域に限られ、太陽光の約4割を占める近赤外光の利用が困難なことがあげられます。

 そこで、高分子材料とフラーレン(炭素原子によるサッカーボール状の構造物)からなる高分子太阳电池に、近赤外光を吸収する色素を配置し、高効率化する方法(色素増感)が考えられますが、通常は色素が凝集し、逆に太陽電池の機能が低下してしまいます。2009年に大北准教授らは、大きな置換基を有する色素を用いることで、凝集を防ぎ、高分子材料とフラーレンの界面に色素を配置した「色素増感高分子太阳电池」の作製に成功しました。しかし、なぜ色素が凝集せずに界面に配置して効率よく発電するのかという原理については謎のままで、応用が進みませんでした。

 今回、この原理の解明のため、せっけんなどの界面活性剤が水と油の界面に自発的に集まる原理に着目し、3成分(高分子材料、フラーレン、色素)の表面エネルギーの评価や薄膜内における色素の局所浓度を解析しました。その结果、色素は界面に存在することが热力学的に安定であるために界面に配置すること、また、高分子材料の结晶化に伴い、高分子结晶相から色素が界面に押し出されることも界面配置の要因であると分かりました。つまり、表面エネルギーが适切な色素を选択し、高分子材料などに结晶化しやすい材料を选択することにより、色素を界面に配置する内部构造の制御が可能であることを明らかにしました。さらに、発电に适した界面构造が自発的に形成されるという特性は、太阳电池の製造工程をシンプルで汎用性が高いものにするため、実用化に向けて重要な役割を果たします。

 この発見により、新概念の「色素増感高分子太阳电池」の開発に確かな道が切り拓かれ、今まで困難であった高分子太阳电池への色素増感の応用が飛躍的に進むものと期待されます。実際、高分子太阳电池の色素増感ではすでに、エネルギー変換効率を既存数値の約20%程度向上できることが実証されており、高分子太阳电池全体としての高効率化への寄与が期待されます。また、将来的には、有机贰尝など界面が机能発现の舞台となるデバイスの开発にも役立つものと考えられます。

 本研究成果は、2011年4月27日(ドイツ時間)に独国科学雑誌「Advanced Energy Materials」のオンライン速報版で公開されました。

研究の背景と経纬

 高分子太阳电池は、軽量、フレキシブルといった物理的な特長のみならず、印刷プロセスにより従来の太陽電池に比べて、はるかに安価に大量生産が可能という特長を有するため、次世代の太陽電池として世界中で研究されています。従来の高分子太阳电池は、電子供与体である高分子と電子受容体であるフラーレンを混ぜた膜で構成されており、太陽光の光の吸収は主として高分子が担っていました。しかし、これまでの高分子では光吸収の波長領域が650nm(nmは10億分の1m)程度に限定されていたため、変換効率の向上に限界がありました。従って、光吸収帯域を近赤外領域(波長が760nm以上)にまで拡大することを克服すべき課題の一つとして研究が進められています。カラーフィルムにみられるように、色素を適切に導入すれば光吸収域を拡大できることが知られていますが、高分子太阳电池に応用された例はほとんどありませんでした。これは、色素が機能するには高分子とフラーレンとの界面に選択的に配置することが求められるためで、溶液プロセスで作製する高分子太阳电池ではそのような内部構造の制御ができませんでした。そのため、色素導入によってむしろ素子特性が低下することが多く、成功例はほとんどありませんでした。近年、大北准教授の研究(参考论文1参照)を含めていくつかの成功例が報告され、色素の凝集を防ぐには大きな置換基が有効であることや、高分子とフラーレンの双方と、電子を効率よくやり取りするための適切なエネルギー準位が重要であることが明らかになりました(図1)。しかし、どのような場合に、色素が選択的に界面に配置され、素子特性の向上につながるのかについては明らかになっていませんでした。

研究の内容

 今回の研究では、色素として大きな置换基を有するシリコンフタロシアニン(厂颈笔肠)、高分子として结晶性のポリヘキシルチオフェン(笔3贬罢)、フラーレンには诱导体の笔颁叠惭を用いました(図1)。色素が高分子とフラーレンの界面に自発的に配置する原理を明らかにするため、界面配置する色素自身の性质、色素を受け入れる材料となる高分子とフラーレンの性质にそれぞれ着目しました。

 まず、界面配置する色素の性质は、水と油の界面に集まる界面活性剤に类似する点があると考えました(図2)。せっけんに代表される界面活性剤は、水になじむ亲水性基と油になじむ疎水性基の両方を併せ持つ両亲媒性の材料です。见方を変えると、水になじまない疎水性基と油になじまない亲水性基の両方を併せ持つ材料とも言えます。つまり、どちらにも深入りしない中间的な性质を示すため、どちらかの相にどっぷり浸かることなく、界面に安定して存在する性质を示します。水と油では表面エネルギーが大きく异なるので、両者を単纯に混ぜると接触する界面面积をできるだけ小さくするように分离します。この系に界面活性剤を加えると、中间的な性质を示す界面活性剤が水と油の界面に来ることで表面エネルギーの差を缓和します。この原理に着目して、色素、高分子、フラーレンの表面エネルギーをそれぞれ测定したところ、表面エネルギーは、高分子<色素<フラーレンの顺に大きくなり、色素は中间の表面エネルギーを有することが分かりました。また、高分子に色素を混ぜた膜とフラーレンに色素を混ぜた膜を作製したところ、前者では表面エネルギーの小さい高分子が表面に配置し、后者では表面エネルギーの小さい色素が表面に配置していました(図3)。このことから、界面活性剤と同様に表面エネルギーに応じて色素の配置位置が変わることが分かりました。さらに、色素が界面に配置している様子を直接见るために、フラーレンと同様に高い表面エネルギーを有するポリスチレンを用いたモデル系を用いて、原子间力顕微镜による観察を行いました。その结果、予测通り、色素は笔3贬罢とポリスチレンの界面に配置していました(図4)。以上のことから、色素が界面に配置する理由は界面活性剤と同じ原理であることが分かりました。

 さらに、高分子太阳电池を構成する高分子とフラーレンの性質についても検討しました。今回用いた高分子(ポリヘキシルチオフェン)は結晶性を、フラーレンは凝集性を示すことが知られています。従って、各々が結晶化あるいは凝集することで、色素は各相から押し出されるために界面に配置する機構が考えられます。この現象は、海水をゆっくり凍らせると、塩分が除かれながら氷が成長する様子に似ています。このことを検証するため、表面エネルギーは同じで結晶度の異なるポリヘキシルチオフェンを用いて、色素の膜中での分散状況の違いを調べました。色素の分散状況は、色素の吸収ピーク波長が局所濃度に応じて変化することに着目しました。その結果、非晶性のポリヘキシルチオフェンを用いた場合でも局所濃度は仕込み濃度よりも大幅に増加しており、色素は均一に分散するのではなく界面に配置していました。そして、ポリヘキシルチオフェンの結晶化が進行するにつれて色素の局所濃度が増加したことから、結晶化が色素の界面配置を促進することが分かりました。表面エネルギーが同じで結晶度だけが異なるポリヘキシルチオフェンを用いているので、この変化は表面エネルギーでは説明できません。従って、表面エネルギーだけでなく、高分子材料の結晶化も界面配置に寄与していると言えます。

 以上のように、表面エネルギーが適切な色素を選択し、高分子材料などには結晶化しやすい材料を選択することにより、色素を界面に配置することができることを明らかにしました。すでに、高分子太阳电池に色素を導入することで性能が向上することは実証済みですので、今回明らかにした合理的な設計指針の基に、さまざまな色素や高分子、フラーレンを組み合わせた素子開発がなされるものと期待されます。

今后の展开

 本研究は、色素増感高分子太阳电池という新概念の太陽電池を開発するための合理的な設計指針を与えるものであり、高分子太阳电池を開発する上で新たな道を開くものです。また、今回明らかにした色素の界面偏在の原理に従って適切な材料を選択することにより、従来は困難であった溶液プロセスでの内部構造の制御が可能となります。本研究は主として高分子太阳电池を対象としたものですが、高分子太阳电池に代表される有機エレクトロニクスでは、溶液プロセスでの作製が最大の利点の1つですので、溶液プロセスでの内部構造の制御が実現すれば、さらに高機能なデバイスの開発につながるものと期待されます。

付记

 本研究は、工学研究科 博士課程3年の本田哲士 氏、辨天宏明 助教、伊藤紳三郎 教授らと共同で行われ、本研究の一部は、三菱化学との共同研究の一環として行われました。

  • 本成果は、以下の事业?研究领域?研究课题によって得られました。

    戦略的創造研究推進事業 さきがけ(個人型研究)

       研究領域:「太陽光と光電変換機能」
       (研究総括:早瀬修二 九州工業大学大学院生命体工学研究科教授)
       研究課題名:「高分子太阳电池の新発電原理の分子論的探求」
       研究者:大北英生 京都大学大学院工学研究科准教授
       研究実施場所:京都大学大学院工学研究科
       研究期間: 平成21年10月~平成27年3月

    この研究领域では、化学?物理?电子工学等の幅広い分野の研究者の参画により异分野融合を促进し、次世代太阳电池の実用化につながる新たな基盘技术の构筑を目标として、理论研究から実用化に向けたプロセス研究に渡る広域な研究を対象とするものです。

参考図

   

  1. 図1 近赤外色素を導入した色素増感高分子太阳电池の構造と用いた材料の構造式
    黄色 :共役高分子(ポリヘキシルチオフェン、P3HT)
    赤色 :近赤外色素(SiPc)
    青色 :フラーレン誘導体(PCBM)
    右図は、各材料の贬翱惭翱および尝鲍惭翱準位を表す。色素が共役高分子とフラーレンのヘテロ接合界面に存在する时は、色素に生成した电子と正孔はそれぞれフラーレンと共役高分子に渡すことができる。一方、色素が共役高分子相で孤立すると色素に生成した正孔は共役高分子に渡せるが、电子は渡すことができず色素にとどまり、光电流発生に寄与しない。

   

  1. 図2 界面活性剤と色素の界面偏在の类似点
    左: 表面エネルギーの低い油分と表面エネルギーの高い水の界面に界面活性剤が集まりミセルを形成する様子。
    右: 表面エネルギーの低い共役高分子(P3HT)と表面エネルギーの高いフラーレン誘導体(PCBM)の界面に中間の表面エネルギーを有する近赤外色素(SiPc)が偏在する様子。

   

  1. 図3 表面エネルギーの色素导入量依存性
    青い丸は笔颁叠惭:厂颈笔肠膜、少量の色素添加で表面エネルギーは色素の値にほぼ近いことから、色素が表面に偏折していることが分かる。赤い丸は笔3贬罢:厂颈笔肠膜、色素导入量を増加しても表面エネルギーは笔3贬罢の値のままであることから、表面は笔3贬罢により覆われていることが分かる。

   

  1. 図4 色素が笔3贬罢とポリスチレンの界面に偏在する様子
    上段:笔3贬罢:笔厂:厂颈笔肠(4:4:2飞/飞)ブレンド膜の吸収スペクトル
    中段:原子间力顕微镜像
    下段:断面プロファイル
    左は未処理の膜、中央はペンタン処理により厂颈笔肠色素のみ除去した膜、右は続いてシクロヘキサン処理により笔厂を除去した膜。岛状部分が笔3贬罢、海状部分が笔厂、界面部分に厂颈笔肠が存在していることが分かる。

用语解説

色素増感

色素の导入により吸収强度や吸収帯域を拡大することで、光に対する感度を向上させる现象を指す。身近な例としてはカラーフィルムがある。色素を导入することで可视光に対する感度が向上し、ハロゲン化银が光により银に还元される反応が効率よく进行するようになる。この原理を有机薄膜太阳电池に応用することで、色素の导入により太阳电池が吸収できる波长领域を拡大し、発生する电流量を増加させることができる。酸化チタンに色素を导入した色素増感太阳电池も同様の原理。

高分子太阳电池

正电荷を输送する材料に共役高分子を用いた有机薄膜太阳电池の総称。电子を输送する材料には、フラーレン诱导体が用いられることが多いが、电子输送性の共役高分子や金属酸化物などが用いられることもある。印刷プロセスによる大量生产が适用できるため、安価な太阳电池として注目を集めている。

表面エネルギー

材料表面は异种の物质に囲まれているため、材料内部に比べると高いエネルギー状态にある。表面が有するこの过剰なエネルギーを表面エネルギーと呼ぶ。水滴が丸くなるのは、表面积を最小にして表面エネルギーをできるだけ小さくするためである。

有机贰尝

有机化合物に正电荷と电子を注入し、両者が再结合することによって热をほとんど出さずに発光する现象を指す。电気エネルギーを光に変换する光电変换素子であり、光を电気エネルギーに変换する太阳电池とは逆のプロセスにより机能する。多くのメーカーによってディスプレイや电子ペーパーへの応用が进行している。

论文名

“Selective Dye Loading at the Heterojunction in Polymer/Fullerene Solar Cells”
(高分子?フラーレン太阳电池のヘテロ接合界面への色素の选択导入)

参考论文

1)“Improvement of the Light-Harvesting Efficiency in Polymer/Fullerene Bulk Heterojunction Solar Cells by Interfacial Dye Modification”
2009年3月16日に米国化学会誌「ACS Applied Materials & Interfaces」のオンライン速報版で公開

2)“Multi-Colored Dye Sensitization of Polymer/Fullerene Bulk Heterojunction Solar Cells”
2010年8月11日に英国科学雑誌「Chemical Communications」のオンライン速報版で公開

関连リンク

  • 论文は以下に掲载されております。
  • 以下は论文の书誌情报です。
    Satoshi Honda, Hideo Ohkita, Hiroaki Benten, Shinzaburo Ito Selective Dye Loading at the Heterojunction in Polymer/Fullerene Solar Cells.
    Advanced Energy Materials Article first published online: 26 APR 2011

 

  • 京都新聞(4月29日 25面)、日刊工業新聞(4月28日 18面)および日経産業新聞(5月11日 9面)に掲載されました。