2011年5月3日
左から影山教授、坂本大学院生
影山龍一郎 ウイルス研究所教授、坂本雅行 生命科学研究科大学院生らの研究グループは、森憲作 東京大学医学系研究科教授らの研究グループとの共同研究によって、成体脳におけるニューロン新生が先天的な匂い応答に必要であることを発見しました。この研究成果が、「米国科学アカデミー紀要」に掲載されることになりました。
【论文名】
Continuous neurogenesis in the adult forebrain is required for innate olfactory responses.(成体脳における継続的なニューロン新生は先天的な匂い応答に必要である)
研究の背景
中枢神経系を构成するニューロンは発生期のみに产生され、一度失われると二度と再生しないと考えられてきました。ところが、ヒトを含めた多くの哺乳动物の成体脳においても神経干细胞が存在し、海马?歯状回や侧脳室周囲?脳室下帯などの特定の领域ではニューロン新生が一生涯続いていることが明らかになってきました。海马における成体脳新生ニューロンの研究は数多くなされており、新生ニューロンが记忆の保持や学习などの高次脳机能と大きく関わっていることが报告されています。ところが、嗅球の神経回路に组み込まれる新生ニューロンの生理的意义については明らかになっていませんでした。
研究の内容
本研究グループは、遗伝子改変により成体脳新生ニューロンを选択的に标识あるいは除去するマウスを作製し、解析を行いました。マウスの嗅球は、匂い分子の情报処理を担う主嗅球系と、フェロモンの情报処理を担う副嗅球系の2つから构成されています。本研究では、副嗅球においても主嗅球同様、新生ニューロンが既存の颗粒细胞と置き换わり神経回路に组み込まれていることが明らかになりました(図1)。また、成体脳ニューロン新生を阻害したマウスでは、颗粒细胞の数が経时的に减少することから、ニューロン新生は副嗅球の颗粒细胞の数および神経回路の维持に必须であることが明らかになりました。
ニューロン新生を阻害したマウスでは、匂いの识别や嗅球记忆に异常は见られませんでした。天敌臭に対する反応を调べたところ、正常マウスもニューロン新生を阻害したマウスもどちらも忌避反応を示しました。ところが、天敌臭と报酬(エサ)を同时に提示すると、正常マウスは忌避反応を示すのに対して、ニューロン新生を阻害したマウスは天敌臭に近付きエサを食べるようになり、さらにエサ无しでも天敌臭に近付くよう条件付けもできました。また、ニューロン新生を阻害したマウスでは、性行动や子育て放弃など、オスあるいはメス特有の行动に异常が见られました(図2)。以上の结果より、成体脳ニューロン新生は先天的な嗅覚依存的な行动に重要な役割を担うことが明らかになりました。
- 図1:成体脳新生ニューロンは主嗅球と副嗅球に组み込まれている。
- 図2:ニューロン新生を阻害した母亲は子育てを放弃した。正常なマウスから产まれた仔の胃の中には母乳が见られるが(左)、ニューロン新生を阻害したマウスから产まれた仔の胃の中にはほとんど母乳が见られなかった(右)。
関连リンク
- 论文は以下に掲载されております。
(京都大学学术情报リポジトリ(碍鲍搁贰狈础滨)) - 以下は论文の书誌情报です。
Sakamoto M, Imayoshi I, Ohtsuka T, Yamaguchi M, Mori K, Kageyama R.
Continuous neurogenesis in the adult forebrain is required for innate olfactory responses. Proc Natl Acad Sci U S A. published ahead of print May 2, 2011.
- 京都新聞(5月3日 21面)に掲載されました。