2011年5月11日
顿耻肠丑别苍苍别型筋ジストロフィー(顿惭顿)は进行性の筋萎缩を呈し、患者はほぼ20歳代に死亡する极めて重篤な遗伝病です。その原因はジストロフィン遗伝子の异常により、骨格筋でジストロフィンが欠损するためで、现在顿惭顿に対する有効な治疗法はありません。
今回、萩原正敏 医学研究科教授の研究グループは、松尾雅文 神戸学院大学教授らとの共同研究で、ジストロフィン遗伝子のエクソンスキッピングを誘導する低分子化合物を世界で初めて発見しました。この成果は、DMDに対するエクソンスキッピング诱导治疗を低分子化合物により可能とする、全く新しいしかも临床応用性が极めて高い治疗法の确立に大きく贡献するものです。
本研究成果は、Nature Communications 誌5月10日号(米国東部標準時間)に「Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene」と題して掲載されました。
研究の概要
Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、幼児期に筋力低下で発症し、その後一貫して筋萎縮の進行する極めて重篤な遺伝性筋疾患である。現在その有効な治療法がなく、多くの患者は20歳代に心不全あるいは呼吸不全により死に至る。DMDはジストロフィン遗伝子の異常により骨格筋でジストロフィンが欠損するために発症する。一日も早い治療を待つ患者には応用される薬剤の開発が望まれ、低分子化合物によるエクソンスキップ誘導は世界から大きく期待されている。そのため、本研究ではある患者が有するナンセンス変異に対し、エクソンスキッピングを誘導する低分子化合物のスクリーニングを行った。まず変異を持つジストロフィン遗伝子のエクソンおよび周辺イントロンをスプライシング解析用のベクターに挿入し、ハイブリッドミニ遺伝子プラスミドを構築した。次にこのプラスミドをHeLa細胞へ遺伝子導入し、候補となる化合物の存在下で24時間培養を行い、得られたmRNAをRT-PCRにより解析した。この解析の結果サイズの異なるmRNAを増幅産物が得られると、その化合物がエクソンスキッピング誘導能を有する可能性がある。このようなスクリーニングを行った結果、リン酸化酵素阻害作用を有する低分子化合物のTG003が、ジストロフィン遗伝子のC.4303G>Tというナンセンス変異が存在するエクソン31のスキッピングを増幅することが明らかとなった。この変異を持つ患者から樹立した筋培養細胞にTG003を導入したところ、エクソンスキッピングの亢進とジストロフィンタンパク質の発現促進を確認した。この結果は、DMDに対する低分子化合物によるエククソンスキッピング誘導治療に道を開く世界で初めての成果であった。
用语解説
顿耻肠丑别苍苍别型筋ジストロフィー(顿惭顿)
顿惭顿は、男児3500人に1人が発症する最も频度の高い伴性劣性遗伝性疾患である。顿惭顿は幼児期に筋力低下を示し始め、年令が长ずるに従い一贯して筋萎缩が进行し、20歳代に心不全?呼吸不全で死亡する极めて重篤な疾患である。顿惭顿の诊断は、血液化学検査で着明なクレアチンキナーゼ値の上昇から、乳児期の何も筋力低下症状のない时期でも可能となっている。この発症前に治疗ができれば、その効果は极めて大きいものと期待される。
ジストロフィン遗伝子
DMDの責任遺伝子であるジストロフィン遗伝子はヒト最大の遺伝子で、79ヶのエクソンから成っている。エクソンは実際にアミノ酸の配列を指令する情報を書き込んだ配列のことで、エクソンはイントロンという介在配列を有している。遺伝子が働くとき、まず遺伝子が転写されてmRNA前駆体が産生される。このmRNA前駆体はスプライシングを受けてイントロンが切り取られ、エクソン配列のみからなるmRNAとなる。mRNAは、翻訳されてタンパクを産生する。DMD患者の遺伝子診断では、エクソン単位の欠失が最も多くみられる。
エクソンスキッピング诱导治疗
ジストロフィン遗伝子のエクソン単位の欠失異常により発症したDMDでは、ジストロフィンmRNA上のアミノ酸読み取り枠がアウトオブフレームになっている。エクソンスキッピング诱导治疗は、この異常に対し、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて欠失に隣接するエクソンのスキッピングを誘導して、エクソンの配列をmRNAから取り除き、アミノ酸読み取り枠をインフレームにかえ、サイズの小さなジストロフィンを発現させようとするものである。
関连リンク
- 论文は以下に掲载されております。
(京都大学学术情报リポジトリ(碍鲍搁贰狈础滨)) - 以下は论文の书誌情报です。
Atsushi Nishida, Naoyuki Kataoka, Yasuhiro Takeshima, Mariko Yagi, Hiroyuki Awano, Mitsunori Ota, Kyoko Itoh, Masatoshi Hagiwara, Masafumi Matsuo
Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene. Nat. Commun. 2:308 doi: 0.1038/ncomms1306 (2011).
- 京都新聞(5月12日 23面)および産経新聞(5月11日夕刊 8面)に掲載されました。