2011年7月1日
左から岛川教授、松本氏、市川特定助教
化学研究所の松本和也 大学院生(理学研究科博士課程)、市川能也 特定助教、島川祐一 教授らの研究グループは、酸化物人工超格子において、低温(300℃以下)での還元?酸化反応が層選択的に起こることを見出し、人工超格子をもちいることで酸素イオンの拡散(移動)方向の制御が可能であることを実証しました。
环境?エネルギー问题の解决に向けて、新しいエネルギー源が注目されていますが、特に燃料电池はクリーンなエネルギー源として大きな期待が寄せられています。しかしながら、広范な実用化のためには、高効率な反応やより低温での动作のための材料开発が必要でした。
今回の研究は、燃料电池の动作の键となる酸素イオンの移动を、酸化物人工超格子をもちいることで、2次元的な层内に闭じ込めることが可能であることを明らかにしたものです。このことは、また、低温での2次元的な酸素の出入りを使った酸素贮蔵材料として酸化物人工超格子を応用できる可能性も示しています。さらに、作製した酸化物人工超格子が、安価で安全なありふれた元素のみで构成されていることも、元素戦略に沿った材料开発の视点からは重要です。このように、本研究成果は、酸化物人工超格子の新材料开発が将来の环境?エネルギー分野での応用展开に繋がるものとして大きく期待されています。
本成果は、英国ネイチャー出版グループが専门领域の科学を横断するオンラインジャーナルとして新たに创刊したScientific Reportsに、平成23年6月30日に公开されました。
【书誌情报】
“Selective reduction of layers at low temperature in artificial superlattice thin films”
Kazuya Matsumoto, Mitsutaka Haruta, Masanori Kawai, Aya Sakaiguchi, Noriya Ichikawa, Hiroki Kurata, and Yuichi Shimakawa
Scientific Reports, 1: 27; DOI: 10.1038/srep00027 (2011).
研究の背景
持続可能な社会の构环に向けて、环境?エネルギー问题は人类が解决しなければならない大きな课题です。近年、その解决のための新しいエネルギー源が大きな注目を集めています。特に、水素と酸素の化学反応からエネルギーを取り出す燃料电池は、大きなエネルギー密度だけでなくクリーンなエネルギー源としても大きな期待を寄せられています。しかしながら、键となる固体电解质における酸素イオンの移动が通常は700℃以上の高温でしか起こらないため、広范な実用化のためには、より低温でイオンが移动するような新しい材料を开発することが必要でした。
研究の内容と今后の展望
ペロブスカイト构造酸化物は高温(700℃~900℃)で酸素イオンの移动を示すことから、固体酸化物燃料电池の电解质として広く研究开発されてきた材料です。今回の研究ではパルスレーザー蒸着法という薄膜成长技术を用いて、酸素欠损ペロブスカイト构造酸化物である颁补贵别翱2.5とチタン酸ストロンチウム厂谤罢颈翱3を原子层レベルで制御して交互に积层し、人工超格子としたものをもちいました。この酸化物人工超格子をアルカリハイドライド(颁补贬2)とともに热処理すると、280℃での低温においても还元反応が进行します。この时、人工超格子を构成する颁补贵别翱2.5层のみが还元されて酸素イオンを放出し颁补贵别翱2に変化しますが、厂谤罢颈翱3层は还元されずに変化しないことが明らかになりました。また、还元されて酸素が抜けた人工超格子薄膜を酸素雰囲気下で热処理すると、颁补贵别翱2层に酸素が取り込まれ、元の颁补贵别翱2.5からなる人工超格子に戻ることも确认されました。
この结果は、酸化物人工超格子において、还元?酸化反応が层选択的に起こることを示しています。さらに、还元?酸化反応に伴う酸素イオンの拡散(移动)は、安定なチタン酸ストロンチウム层により垂直方向の移动がブロックされ、2次元的な层内に闭じ込められていることを示しています。
酸化物人工超格子において、このような低温(300℃以下)での还元?酸化反応が层选択的に起こることを见出したのは、はじめてです。また、人工超格子をもちいることで酸素イオンの拡散(移动)方向を2次元的な层内に制限できることが実験的に示されたことで、固体酸化物燃料电池の电解质での酸素イオンの移动の制御や2次元の新しい酸素贮蔵材料としての応用展开にも繋がることが期待されます。特に原子层レベルで积层构造を制御した人工超格子では、适当な厚さをもつ层状构造を任意の繰り返し周期で作製することが可能であり、层状构造を変えることで、酸素イオンの移动を制御することも可能となります。さらに、今回作製した酸化物人工超格子は、鉄(贵别)やチタン(罢颈)といった安価で安全なありふれた元素のみで构成されており、材料开発における元素戦略の観点にも沿ったものとなっています。
なお本研究の一部は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「元素戦略を基軸とする物質?材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾皓平 理化学研究所 基幹研究所 所長)における研究課題「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」(研究代表者:島川祐一、研究期間:2011年度~2015年度)の支援を受けて行われたものです。
- 図: 酸化物人工超格子での層選択的還元?酸化反応
関连リンク
- 论文は以下に掲载されております。
- 京都新聞(7月1日 29面)、日刊工業新聞(7月1日 21面)および科学新聞(7月15日 4面)に掲載されました。