新たな残留性有机汚染物质「短锁塩素化パラフィン」が中国の食品中で急増してきていることを発见-越境汚染の可能性を示唆-

新たな残留性有机汚染物质「短锁塩素化パラフィン」が中国の食品中で急増してきていることを発见-越境汚染の可能性を示唆-

2011年7月11日

 小泉昭夫 医学研究科教授を研究代表者とする厚生労働科学研究食品の安心?安全確保推進研究事業「食の安全に資する継続的モニタリングシステムの構築と早期検知に向けた研究班」と北京大学、株式会社島津テクノリサーチの共同研究による成果が、原田浩二 医学研究科准教授を筆頭著者として、2011年7月11日、米国化学会誌Environmental Science and Technology(環境科学技術)論文の電子版に掲載されました。

【论文情报】
Dietary exposure to short-chain chlorinated paraffins has increased in Beijing, China (食品による短鎖塩素化パラフィンへの曝露は中国北京市で増加)
Kouji H. Harada, Takumi Takasuga, Toshiaki Hitomi, Peiyu Wang, Hidenori Matsukami, Akio Koizumi
(原田浩二?京都大学医学研究科、高菅卓叁?岛津テクノリサーチ、人见敏明?京都大学医学研究科、王培玉?北京大学、松神秀徳?岛津テクノリサーチ、小泉昭夫?京都大学医学研究科)

研究の要旨

 短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)は環境中に残留し、生態系で生物蓄積するため、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約による審査を受けています。 SCCP含有量を、中国、韓国、日本で1990年代と2009年に集められた食品試料について測定しました。日本では、SCCPsは1990年の20検体中14検体、2009年20検体のうち13検体で検出されました。これら二つの調査年間でSCCPs摂取量は変化しておらず、体重1キログラムあたり平均1日54ナノグラムでありました。北京では、SCCP摂取量は1993年から2009年まで2桁上昇していました(2009年で体重1キログラムあたり平均1日620ナノグラム)。北京でのSCCP摂取量の上位95パーセンタイル推定値は体重1キログラムあたり1日1200ナノグラムでした。ソウルでは、1994年の試料では検出可能な量のSCCPを含んでいませんでした。また2007年でも5検体のうち1検体でわずかにSCCPsが検出されました。予備的証拠ながらも 北京の2009年の食品で著名な食品中SCCP含有量が増加したことは、汚染された食品の種類と汚染源の調査を必要とすると考えています。

研究の背景

 我が国おける食物自給率は極めて低く、カロリーベースで40%です。そのため食糧の多くを中国や韓国に依存しています。近年、輸入食品を含めて「食の安全」が国民の関心事として取り上げられるにいたっています。安心を担保するための食糧および母体の曝露の反映である母乳の化学物質の汚染状況を長期監視しています。京都大学では残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs)のヒト暴露の長期モニタリングのために、試料バンクが2003年に創設されました。これは日本国内のみでなく、アジア地域で得られた食事試料、血液試料、母乳試料も含んでいます。今後、食品の輸入の増加により、国内のモニタリングのみでは十分に曝露の評価、予測ができなくなることが予想され、そのためにも近隣諸国での試料を得て、各国での食品を介した化学物質曝露の現状、変遷について情報を得ることが必要と考えています。

 カネミ油症を引き起こしたポリ塩化ビフェニル、焼却に际して発生するダイオキシンなどの笔翱笔蝉のうち、脂溶性の化学物质は、环境に放出されたのち、生态系で一部は分解等を受け生态系から除去されますが、多くは生态系で生物浓缩されます。特に食物连锁で最も高位置に属する我々ヒトは、食物、大気、饮料水を介して曝露されます。その结果、长期间にわたり体内の脂肪组织に蓄积します。

 今回、调査を行った短锁塩素化パラフィンは、现在残留性有机汚染物质に関するストックホルム条约で规制対象とするべきか検讨されている化学物质です。短锁塩素化パラフィンは塩化ビニルへの可塑剤、プラスチックなどの难燃剤として添加されたり、金属加工润滑剤として使われたりしてきました。日本では生物浓缩性が高いことから化学物质审査规制法で2005年2月に第一种监视化学物质として指定されました。日本では自主规制により金属加工润滑剤としての使用は2007年以降报告されていませんが、中国では2008年で45万トンの生产量が报告されており、世界最大の生产国となっています(図1)。中国では経済成长による金属加工、プラスチック生产の増大で、塩素化パラフィン生产量は10年间で10倍以上になりました。

论文での公表内容

 このような生产量の拡大により食品が汚染されていることが悬念されたため、国内と海外で収集された食事试料を用いて、各国の短锁塩素化パラフィンを比较评価しました。その结果、短锁塩素化パラフィン中国の食事で最も高く検出されました。1日摂取量として平均およそ50マイクログラムとなっており、他の笔翱笔蝉に比べても高い摂取量となっていました。1990年代との比较も行い、短锁塩素化パラフィンは中国の経済発展に伴い増えたことが示唆されました(図2)。日本では短锁塩素化パラフィンの使用量が减少したにもかかわらず食品からの摂取量に减少は见られませんでした。

 工业用製品である短锁塩素化パラフィンが食用油に混入する経路については、今后の调査が必要と考えています。また今后、大気を介した越境汚染、食粮输入による曝露への影响を评価します。共同研究机関である北京大学と协力して、引き続き追跡评価していきます。

上记论文に関连した厚生労働科学研究への成果报告书への记载事项

 上记研究を受け、食事中のどの成分に短锁塩素化パラフィンが含有されているのかを调べました。食品试料中の脂质含量が増えると短锁塩素化パラフィン含有量が増加するという解析结果から、油脂类が汚染されていることを予想しました。中国の市场に出回っている油脂类を调査したところ、油1グラム中最大7.5マイクログラム、1日摂取量として最大245マイクログラムの汚染が见つかりました。製品ごとに含有量に大きなばらつきはあったものの、油脂による短锁塩素化パラフィンの摂取が大きな割合を占めていることが明らかとなりました。また中国から日本に输入された食用油でも同程度の短锁塩素化パラフィンが検出されました。平成22年4月14日の消费者庁からのニュースリリースにもありますように、中国で流通する食用油に卫生管理が彻底されていないものが存在することが悬念されています。(消费者庁ホームページ:)

 

  • 京都新聞(7月15日 15面)および日刊工業新聞(7月29日 28面)に掲載されました。