若者の「やる気」:10年の変迁とニート?ひきこもり倾向との関连

若者の「やる気」:10年の変迁とニート?ひきこもり倾向との関连

2011年12月26日


内田准教授

 こころの未来研究センターで行った若者のやる気に関わる心理学的な実証研究に係る研究成果が、今月の「Jouranl of Social Issue」誌で発表されました。これは、こころの未来研究センターに本年7月までの2年間、学術振興会外国人特別研究員としてセンターに滞在していたビナイ?ノラサクンキット ミネソタ州立大学准教授と内田由紀子 こころの未来研究センター准教授の研究グループで行ったプロジェクトの研究成果です。

研究の概要

 内阁府の调査では20代~30代の若者の70万人がひきこもり状态にあると推测され、长い场合にはひきこもり期间は実に10年以上と、今や大きな家族?社会问题の一つになっている。こうしたニート?ひきこもりをカテゴリーとしてとらえるのではなく、いくつか共通する心理特性を同定し、スペクトラムとしてとらえた上で、若者のこころや「やる気」の问题と日本文化へのグローバリゼーションの影响との関连を明らかにしようとしたのが本研究の试みである。

 日本の社会の若者においては、必ずしも従来の関係志向型なだけではない価値観が定着しつつある。雇用システムの変化と流动性の高まり、さらにはグローバリゼーションの影响から、自己责任、能力评価などの个人主义的概念が取り入れられてきた。これは関係からの解放でもあると同时に、そしてその帰结として関係性からの恩恵を失い、相互协调的に定位される「自分」のよりどころとする场を失うことでもあるのかもしれない。このようなグローバリゼーションの影响は、特に文化内で中心的振る舞いをしている人たちよりも、「周辺的な振る舞い」をしている人でより顕着であろうと考えられる。

 そこで我々のグループでは、ニート?ひきこもり倾向にある人达の「动机づけ」(どのようなときにやる気を持つことができるか)に着目した研究を行った。

 まずニート?ひきこもり倾向の要因を同定し、その要因についての个人差を测定する尺度を开発した。ニートやひきこもりにまつわる调査研究からいくつもの行动?心理倾向をピックアップし、学生や実际のひきこもりの人たちを対象に调査を行ったところ、叁つの因子が见られることがわかった。一つはフリーター生活志向性であり、「职场や仕事で我慢できないことがあれば无理せずにやめた方がいいと思う」といったような考えを持っていること。二つめは自己効能感の低さであり、「コミュニケーションをとるのが难しい」といったような自信のなさを表す。叁つめは将来に対する目标の不明瞭さで、「将来何をしたらよいのかわからない」という要素であった。

 続いて、動機付け実験を行った。ハイネらによる2001年の比較文化の先行研究では(Heine et al., 2001)、北米では自己の長所への注意が重要であるため、ある課題(想像力テスト)に対して好成績であったと伝えられた後には同様の課題を継続して行う傾向があるが、成績が芳しくなかったことが伝えられると「自分にとって大切な課題ではなかった」と考え、課題への持続性が下がってしまった。これに対して日本の学生は失敗したときにこそ「もっと頑張らなければ」という動機が高まり、類似課題に自発的かつ持続的に取り組んでいた。この知見を援用して我々が今回行った実験では、まず大学生を対象にニート?ひきこもり尺度への回答を求めてニート?ひきこもりになるリスクの高いグループ「高リスク群(上位10パーセント)」とニート?ひきこもりになるリスクが低いグループ「低リスク群(残りの90パーセント)」、という二つのグループを同定し、それぞれの群の人たちを対象に実験室研究を行った。実験ではハイネらが用いたのと同じ課題(想像力テスト)をまず行ってもらい、成績のフィードバックを行った。その後、(実験者が実験に必要な資料を取りに行くと言って退室し)実験室に一人になったときに、参加者がどのぐらい自発的に同じ想像力テストに取り組むかを検証した。すると「低リスク群」の学生は、ハイネの研究で示された日本人の学生のパターンを追試し、成功したときよりも失敗のした時の方が、類似課題を継続的に行っており、動機づけが高まっていた。しかし逆に「高リスク群」の学生は、成功した時よりも失敗した時に課題を継続する動機づけが低くなっていた。つまりニート?ひきこもりのリスクの高い傾向にある人々は、失敗の後に努力することをやめ、あきらめてしまう傾向があるといえる。その背景には「努力しても無駄だ」というような、適応力に対する自信のなさ、可塑的な人間観?人生観の欠如が見られる。

 また、さらに我々が予想していなかった结果が一つあった。ハイネら行った実験(実験の実施は1999年)のまる10年后の2009年に今回のデータは集められたわけであるが、比较してみると、今回の学生は10年前の学生に比べて「全体的に」课题への取り组み时间が减少していたのである。この差は统计的に意味のあるもので、现在の学生は失败した场合にも成功した场合にも、いずれにしても一生悬命课题に取り组むという倾向が减退していたことがわかった。もちろん、10年前と比较すると様々な要件が変化している。実験者を待っている间に课题をやって时间をつぶすぐらいなら携帯でメールをチェックしよう、ということが起こったとも考えられる。しかしそれも含めて、何か一つのことに费やす时间が减じられている。このことは、ニート?ひきこもりが世の中全体の若者の问题として取り上げられてきたことと无関连ではないのではなかろうか。

関连リンク

  • こころの未来研究センターウェブサイト
  • 论文は以下に掲载されております。

    【书誌情报】
    Vinai Norasakkunkit and Yukiko Uchida. Psychological Consequences of Postindustrial Anomie on Self and Motivation Among Japanese Youth.
    Journal of Social Issues, Vol. 67, No. 4, 2011, pp. 774--786 DOI:10.1111/j.1540-4560.2011.01727.x

 

 

  • 京都新聞(12月27日 2面)および毎日新聞(平成24年1月10日 23面)に掲載されました。