2012年1月18日
左から豊岛教授、松村助教
松村繁 ウイルス研究所助教、豊島文子 同教授らの研究グループは、皮膚の健康を維持するのに必要な細胞分裂軸方向を制御する遺伝子を発見しました。
この研究成果は、1月17日(英国時間)に「Nature Communications」で発表されました。
【论文书誌情报】
Shigeru Matsumura, Mayumi Hamasaki, Takuya Yamamoto, Miki Ebisuya, Mizuho Sato, Eisuke Nishida and Fumiko Toyoshima
ABL1 regulates spindle orientation in adherent cells and mammalian skin.
Nature Communications: doi:10.1038/ncomms1634 (2012)
研究の概要
私达の体の様々な组织では、构成する细胞を入れ替えることで常にフレッシュな状态を保っています。例えば皮肤では、外界に接した外侧の细胞が垢となってはがれ、内侧の细胞が増殖し新しい细胞を供给する新陈代谢を繰り返すことで恒常性が维持されています。したがって、皮肤组织を构成する细胞の分裂?増殖パターンの解明は、健康な皮肤を保つ仕组みを理解する上で重要です。皮肤组织の中で増殖できる细胞は、皮肤表皮の下にある基底膜に接している基底细胞と呼ばれる未分化の细胞群です。基底细胞の分裂には方向性があり、必ず基底膜に対して平行あるいは垂直に分裂します。前者は対称分裂であり、二つの娘细胞は共に基底膜に接するため増殖能を维持し、表皮シートの拡大に寄与します。一方、后者は非対称分裂であり、基底膜から解离した娘细胞は増殖を停止し段阶的に分化することで皮肤组织の多层化に寄与します。この分裂轴の方向性は皮肤组织の形成と恒常性维持に重要であると认识されていましたが、哺乳类个体レベルで制御分子を网罗的に探索することが困难であるため、その分子机构は长らく不明でした。
今回我々は、ヒトの培养细胞を用いて分裂轴方向を评価できる简便な実験系を确立し、これを利用して哺乳类细胞の分裂轴を制御する遗伝子の网罗的スクリーニングに成功しました。同定された遗伝子の一つである原がん遗伝子础叠尝1チロシンキナーゼがマウス胎児の皮肤において、基底细胞の分裂轴方向を制御していることを见出しました。
础叠尝1の働きについて详细に解析した结果、进化的に保存された分裂轴制御因子复合体である尝骋狈/狈耻惭础复合体に作用することが分かりました。础叠尝1の机能を抑制すると、培养细胞では尝骋狈が细胞表层に过剰に蓄积してしまうため分裂轴が不安定になること、皮肤基底细胞では通常细胞の顶端侧に存在する尝骋狈が侧面や底面に存在するようになり、それに引きずられる形で分裂轴も変化することが见出されました。また、础叠尝1は尝骋狈の结合因子である狈耻惭础の1774番目のチロシン残基を直接リン酸化し、それにより尝骋狈/狈耻惭础の极性轴に沿って分裂轴を并べていることも分かり、础叠尝1が分裂轴の中枢机构を制御する重要な遗伝子であることが明らかとなりました。
今回我々の行った网罗的探索により、哺乳类生体内の分裂轴方向を制御する因子をより早く探索することが可能となりました。分裂轴の异常は、多発性嚢胞肾や大肠がんにも関与することが最近报告されており、これらの病気の発症メカニズムの解明にも贡献すると考えています。また、种々の干细胞では分裂轴方向により分化/未分化の振り分けが行われるため、皮肤を含む様々な组织?臓器での干细胞の维持机构の解明やアンチエイジング技术の开発につながると期待しています。
- 京都新聞(1月18日 25面)、日刊工業新聞(1月19日 25面)、毎日新聞(1月18日 4面)および科学新聞(2月3日 4面)に掲載されました。