霊长类の脳神経回路から特定の経路を选り分ける「二重遗伝子导入法」を开発

霊长类の脳神経回路から特定の経路を选り分ける「二重遗伝子导入法」を开発

2012年6月19日

 渡邉大 生命科学研究科教授、松井亮介 同助教らは、伊佐正 自然科学研究機構生理学研究所教授、木下正治 同特任助教、小林和人 福島県立医科大学教授、加藤成樹 同助教らと共同研究を行い、霊長類モデル動物の複雑な脳神経回路の中で特定の経路の神経情報を可逆的に遮断する技術の開発に成功しました。さらにこの技術により、ヒトをはじめとする霊長類特有の手指の巧みな動きを制御する脳の仕組みの一端が明らかになりました。

 本研究成果は英国科学誌「狈补迟耻谤别」(6月17日号电子版)に掲载されました。

概要

 脳には非常に多种类の神経细胞が存在し、さらにこれらの神経细胞が互いに接続し复雑な回路を构筑しています。脳の仕组みを理解するためには、个々の回路の机能を明らかにすることが大切であり、そのためには特定の神経回路を正确に遮断してその影响を调べる手法が非常に有効です。従来は、精密な遗伝子操作が可能なマウスなど限られた动物でのみこのようなアプローチが可能でした。本共同研究チームは、ヒトと进化的に近い脳をもつマカクサルの脳を解析するために、二つのウイルスベクター(図中:顺行性ベクター、逆行性ベクター)による「二重遗伝子导入法」を开発し、マカクサルの脳の特定の神経回路を选択的かつ可逆的に遮断する技术を确立しました。

 さらに研究チームは、この技术を使って手指の制御に関わる神経回路の解析を行いました。手指を巧みに操ることができる私达ヒトを含め霊长类の运动系神経回路には、他の哺乳类にはみられない特徴があり、従来より论争がありました。すなわち、霊长类では脊髄レベルに进化的に新しい「直接経路」と旧い「间接経路」が混在し、そのうち「间接経路」が手指の巧緻运动制御に関わっているか、よく解っていませんでした。本手法を用いてマカクサルの「间接経路」を构成する脊髄固有ニューロン(図参照)の神経伝达を选択的に遮断したところ、手指の巧みな动きが损なわれました。この结果から、私达ヒトでも「间接経路」か?手指の精緻な动きに重要な役割を果たしていると考えられます。

 


図:「二重遗伝子导入法」による选択的かつ可逆的な神経回路遮断

2种类のウイルスベクター(顺行性ベクター?逆行性ベクター)を用いることで、目的の神経回路(この场合は脊髄固有ニューロン)にのみ遗伝子発现ユニットが导入される。さらに动物个体に顿辞虫という薬剤を饮ませたときのみ、遗伝子発现ユニットのスイッチが入り、シナプス伝达が阻害され神経情报が遮断される。

 

社会的意义

  1. 高次脳机能解明の方法论に大きな突破口
    本技术により、ヒトと进化的に近い霊长类モデル动物を使って、特定の神経回路の机能を正确に调べることが可能になりました。霊长类にのみ见られる高度な脳机能の解明が期待できます。
  2. 特定の神経回路を标的にした遗伝子治疗法开発へ期待
    パーキンソン病、统合失调症、うつ病、てんかん等の脳疾患の治疗に使われる薬の多くは、脳の神経活动を変化させる作用により症状の改善を図ります。しかしながら、これらの薬の多くは、脳の広范囲に作用するために副作用が问题となり、期待する治疗効果が得られない场合もあります。今回开発した二重遗伝子导入法は、特定の神経回路の神経活动を选択的かつ可逆的にコントロールする技术であり、この原理を応用することで副作用の少ない脳疾患の治疗法の开発が期待できます。
  3. 脊髄は単なる反射の経路という教科书的常识を覆す成果
    教科书の常识では、脊髄は脳からの电気信号を伝える通り道であり、せいぜい反射の経路としか考えられていませんでした。今回の研究により、霊长类特有の精緻な手指の运动制御における脊髄神経回路の重要性が明らかになりました。间接経路をうまく活用することで、脊髄损伤等における手指の机能回復を促进するリハビリテーション法や医疗技术の开発が期待できます。
  4.  

    文部科学省?脳科学研究戦略プログラム(課題C:拠点長 伊佐正 生理学研究所教授)に基づく自然科学研究機構 生理学研究所?京都大学?福島県立医科大学の共同研究による研究成果です。

    関连リンク

    自然科学研究机构生理学研究所のリリース

    日本语版

    英语版

    书誌情报

    [DOI]

    Kinoshita Masaharu, Matsui Ryosuke, Kato Shigeki, Hasegawa Taku, Kasahara Hironori, Isa Kaoru, Watakabe Akiya, Yamamori Tetsuo, Nishimura Yukio, Alstermark Bror, Watanabe Dai, Kobayashi Kazuto, Isa Tadashi.
    Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates.
    Nature, 2012/06/17/online
    doi: 10.1038/nature11206

    英国科学誌「狈补迟耻谤别」6月17日电子版

     

  • 京都新聞(6月18日 20面)、日本経済新聞(6月18日 34面)および科学新聞(7月6日 4面)に掲載されました。