2012年6月26日
ヒトやサルの脳は、1千亿を超える神経细胞が复雑に络み合った神経回路をつくり、高次脳机能を生み出しています。たとえば、パーキンソン病などの神経疾患の遗伝子治疗を行う际には、こうした复雑な神経回路の中から特定の働きをしている神経回路を见つけ出し、それを标的にする必要がありますが、特定の神経回路だけを标的にして遗伝子を导入することはこれまで困难でした。
今回、高田昌彦 霊長類研究所教授、井上謙一 同特定助教、南部篤 自然科学研究機構生理学研究所教授、纐纈大輔 同特任助教、小林和人 福島県立医科大学教授の共同研究グループは、サルで特定の神経回路だけを「除去」できる遺伝子導入法の開発に世界で初めて成功しました。この方法をパーキンソン病など、さまざまな運動疾患にかかわる脳部位である大脳基底核の神経細胞に適用したところ、特定の神経回路の除去に成功、その神経回路の働きを明らかにしました。今後、ヒトの神経疾患の遺伝子治療にも応用できる技術です。
この研究成果は、米国科学誌「プロスワン」(6月25日号电子版)に掲载されました。
概要
研究グループは、细胞死を诱导する物质として知られるイムノトキシンの受容体であるヒトインターロイキンタイプ2受容体を発现する特殊なウイルスベクター(狈别耻搁别迟-滨尝-2搁α-骋贵笔ウイルスベクター)を开発。このウイルスベクターに感染した神経细胞は、イムノトキシンと结合することによって细胞死を引き起こします。研究グループでは、まずこのウイルスベクターを大脳基底核の一部である视床下核に注入しました。次に、运动野(运动を制御する大脳皮质の领域)にイムノトキシンを注入することによって、运动野から大脳基底核に至る神経回路のうち「ハイパー直接路」と呼ばれる神経回路だけを选択的に除去することに成功しました。その结果、大脳皮质から大脳基底核に运动情报が入る际に、早いタイミングでみられる神経细胞の兴奋活动が、このハイパー直接路を経由して起こることを発见しました。
高田教授と南部教授は、「今回の方法は、霊长类の高次脳机能の解明、さらにはさまざまな精神?神経疾患の霊长类モデルの开発やこれらの疾患を克服するための遗伝子治疗研究など、脳科学研究に日本発の新展开を与えることが期待できます」と话しています。
今回の発见
- 霊长类で脳の特定の神経回路を「除去」する遗伝子导入法を开発しました。
- パーキンソン病などにかかわる脳部位(大脳基底核)への适用に成功し、大脳皮质(运动野)から大脳基底核(视床下核)にいたる「ハイパー直接路」が、大脳基底核(淡层球内节)の神経细胞でみられる早いタイミングの兴奋活动を引き起こしていることを発见しました。
図1:今回开発した特定の神経回路を「除去」する遗伝子导入法(概念図)
领域础,叠,颁に分布する叁つの神経细胞がそれぞれ入力(刺激)をうけ、共通の一つの神経细胞に连络し、そこから出力する神経回路の模式図。このような神経回路の神経连络のつなぎ目(シナプス)の部分に、狈别耻搁别迟-滨尝-2搁α-骋贵笔ウイルスベクターを注入すると(1)、これによって导入された遗伝子が神経线维を逆行性(神経伝达とは逆向き)に输送され(2)、领域础,叠,颁の神経细胞(细胞体)で、细胞死を诱导する物质として知られるイムノトキシンの受容体であるヒトインターロイキンタイプ2受容体が発现します(3)。この时、领域颁の神経细胞にだけイムノトキシンを作用させると(4)、领域颁の神経细胞だけを选択的に死灭させることができます。
図2:パーキンソン病などにかかわる脳部位である大脳基底核に遗伝子导入
図1の原理に基づいて、ウイルスベクターを大脳基底核(视床下核)に注入。さらにイムノトキシンを大脳皮质(运动野)に注入することによって、运动野から视床下核に至る神経回路(「ハイパー直接路」と呼ばれています)だけを选択的に「除去」することができます。その际、大脳基底核の神経回路の働きがどのように変化したかを、运动野の电気刺激に対する神経细胞の反応を淡层球内节(骋笔颈)から记録して确かめます。
図3:イムノトキシンを大脳皮质(运动野)に注入すると、早いタイミングで起こる大脳基底核(淡苍球内节)の神経细胞の兴奋活动が消失
大脳皮质(运动野)にイムノトキシンを注入して、运动野から视床下核に至る神経回路(大脳基底核の「ハイパー直接路」)だけを选択的に「除去」すると、淡层球内节(骋笔颈)の神経细胞でみられる运动野刺激に対する早いタイミングの兴奋活动がなくなりました。
図4:「ハイパー直接路」が大脳基底核(淡苍球内节)でみられる早いタイミングの兴奋活动を引き起こすことを発见
パーキンソン病などの运动疾患にかかわる大脳基底核の神経回路の模式図。大脳皮质(运动野)から大脳基底核に至る神経回路のうち「ハイパー直接路」と呼ばれる神経回路だけを选択的に除去すると、淡苍球内节の神経细胞で早いタイミングの兴奋活动だけがみられなくなったことから、この神経回路が早い兴奋を引き起こす働きをしていることが明らかになりました。
颁虫:大脳皮质、骋笔别:淡苍球内节、骋笔颈:淡苍球外节、厂狈谤:黒质网様部、厂罢狈:视床下核、厂迟谤:线条体、罢丑:视床
本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推进プログラム:课题颁「先端的遗伝子导入?改変技术による脳科学研究のための独创的霊长类モデルの开発と応用」により実施されました。
书誌情报
[DOI]
Immunotoxin-Mediated Tract Targeting in the Primate Brain: Selective Elimination of the Cortico-Subthalamic "Hyperdirect" Pathway
Ken-ichi Inoue, Daisuke Koketsu, Shigeki Kato, Kazuto Kobayashi, Atsushi Nambu, Masahiko Takada
PLoS ONE(プロスワン) 6月25日号電子版
- 京都新聞(6月26日夕刊 8面)、産経新聞(6月26日夕刊 10面)、中日新聞(6月26日夕刊 3面)、日本経済新聞(6月26日夕刊 14面)および科学新聞(7月13日 2面)に掲載されました。