チンパンジーの味覚には地域特异的な遗伝子が関係している

チンパンジーの味覚には地域特异的な遗伝子が関係している

2012年8月17日


左から平井教授、今井准教授、早川氏

 このたび、早川卓志 霊長類研究所大学院生、今井启雄 同准教授、平井启久 同教授らの研究グループは、チンパンジーの苦味感覚の地域差に関しての研究成果を発表し、「PLOS ONE」に掲載されました。

研究の概要

 热帯アフリカに生息するチンパンジーは、西アフリカから东アフリカまで広い范囲に分布しており、様々な环境に适応しています。例えば食べ物が违います。ベルノニア(図1)というとても苦いキク科の植物は、东アフリカのチンパンジーが食べることが知られています。その苦味成分には寄生虫を杀す作用があることから、体调を崩したチンパンジーが薬として口にしているのではないかと考えられています。このような行动の地域差の背景に、研究グループは遗伝子の地域差が関係しているのではないかと考えて研究を行いました。


図1:东アフリカのチンパンジーが食べるキク科の植物ベルノニア?アミグダリナ。とても强い苦味を呈するため、东アフリカのチンパンジーが寄生虫を杀す薬として利用しているのではないかと考えられている。

 研究グループは、日本全国の动物园や研究施设に协力をいただいて、4种类のアフリカ地域に由来するチンパンジーについて、苦味感覚をもたらす原因遗伝子である苦味受容体遗伝子(罢础厂2搁)の塩基配列の个体差を网罗的に决定しました。その结果、惊くべきことに、罢础厂2搁のおよそ3分の2の遗伝子型が、地域に特异なものであることが明らかになりました。また、そのような个体差が地域に出现する过程を解析したところ、地域によって异なる自然选択が生じていることが明らかになりました。この结果は、异なる食物环境适応による地域差が、チンパンジーの苦味感覚に生じていることを示しています。

 例えば、冒头で述べたベルノニアの苦味を感知している可能性の高い罢础厂2搁46という苦味受容体遗伝子の一つは、东アフリカのチンパンジーのおよそ1割の个体で机能していないことが期待されました。このことは、ベルノニアの苦味を许容できる个体が东アフリカ集団に存在し、ベルノニア食を推进していることを示しているのかもしれません。一方、西アフリカ集団では、アブラナ科の野菜やミカン科の果物に含まれている苦味を认识する罢础厂2搁38という苦味受容体遗伝子が、半数以上の个体で机能していないことが期待されました(図2)。実际の野生チンパンジーの食べ物とどのように関係しているか具体的にはまだわかりませんが、チンパンジーが异なる苦味感覚によって、アフリカの异なる食物环境に适応している可能性を示しています。


図2:苦味感覚の地域差の一例。アブラナ科やミカン科の植物に含まれる苦味を受容する罢础厂2搁38の遗伝子配列を地域间で比较した。その结果、西アフリカの半数以上の个体においてのみ、この罢础厂2搁38が机能していないことが期待され、この地域差には自然选択の影响が有意に存在していることが示された。


研究グループは、今回明らかにされたチンパンジーの苦味感覚の地域差が、実际に热帯アフリカのチンパンジーの採食行动や食文化にどのような影响をもたらしているかを解明していくことを今后の目标としています。チンパンジーはヒトに最も近い亲戚で、遗伝子配列の99%が同じですが、食生活は生息地の环境に强く依存しています。このような异なる食物环境への味覚适応をチンパンジーで明らかにすることは、全世界で多様な食文化を持つヒトの遗伝的背景を探る重要な键となると考えています。

 本研究の遂行にあたっては、伊豆シャボテン公园、高知県立のいち动物公园、多摩动物公园、东山动植物园、福冈市动物园、宫崎市フェニックス自然动物园の协力をいただきました。

论文タイトルと着者

[DOI]

论文タイトル
Eco-geographical Diversification of Bitter Taste Receptor Genes (TAS2Rs) among Subspecies of Chimpanzees (Pan troglodytes).

着者
早川卓志1,2、菅原亨1、郷康広1、鵜殿俊史3、平井启久1、今井启雄1

  1. 京都大学霊長類研究所 分子生理研究部門 遺伝子情報分野
  2. 日本学術振興会 特別研究員 DC1
  3. 京都大学野生動物研究センター 熊本サンクチュアリ

発表内容掲载誌
PLoS ONE 7(8): e43277

本研究成果は、主に以下の事业?研究课题によって得られました。


科学研究費補助金 基盤研究(B)研究代表者 今井啓雄

  • 研究課題名: ゲノム多様性を基盤とした霊長類の種内?種間感覚特性の解明
    研究期間: 2009年4月~2012年3月
  • 研究課題名: ゲノムと微量成分に注目した霊長類採食活動の再考 (海外調査)
    研究期間: 2012年4月~2015年3月 (予定)
  • 研究課題名: 霊長類化学感覚の分子?細胞メカニズム
    研究期間: 2012年4月~2016年3月 (予定)

铃木谦叁记念医科学応用研究财団助成金

  • 研究课题名:霊长类の苦味受容体をプローブとした生理活性物质探索
    研究代表者:今井启雄
    研究期間: 2009年4月~2010年3月

武田科学振兴财団生命科学研究奨励

  • 研究课题名:霊长类苦味受容の分子?细胞?个体研究
    研究代表者:今井启雄
    研究期間: 2009年4月~2012年9月

グローバルCOE A06

  • 研究課題名: 生物の多様性と進化研究のための拠点形成-ゲノムから生態系まで
    研究代表者: 阿形清和 (事業推進者として今井啓雄、平井启久を含む)
    研究期間: 2007年9月~2012年3月

 

  • 朝日新聞(8月17日夕刊 9面)、京都新聞(8月17日夕刊 1面)、産経新聞(8月17日夕刊 8面)、中日新聞(8月17日夕刊 12面)、日本経済新聞(8月17日夕刊 14面)および毎日新聞(8月17日夕刊 10面)に掲載されました。