2012年8月17日
左から库本准教授、芹川教授、中西技术専门职员
実験用シロネズミは、世界中でひろく用いられている代表的な実験動物です。しかし、その起源は知られていませんでした。このたび、庫本高志 医学研究科准教授、芹川忠夫 同教授、中西聡 同技術専門職員らの研究グループは、全世界で利用されているシロネズミ117系統のDNAを調べて、すべての系統が共通してたったひとつのアルビノ突然変異を持っていることを突き止めました。さらに、このアルビノ変異は、まだら模様をもったラットに生じた可能性が非常に高いことがわかりました。つまり、ラットが実験動物化された19世紀後半、あるいはそれ以前に、まだら模様のラットがまず利用され、その繁殖の過程でシロネズミが出現したと考えられます。このシロネズミ(アダムあるいはイブ)の子孫たちは、性質が温順で人にもよくなれたことから、実験動物としてひろく用いられるようになったと思われます。
本研究成果は、8月16日付け(米国東部時間)の米国科学誌PLoS ONEに掲載されました。
実験用ラットとは
学名Rattus norvegicus、和名ドブネズミ。野生のドブネズミを长い间かけて家畜化し、动物実験に用いるために実験动物化したもの。成熟体重は、雌で200~400驳、雄で300~700驳。鼻先から尾の根元までの体长は20~25肠尘、尾长は15~25肠尘。
ラットは1850年ごろから学术研究に用いられました。ラットを利用したもっとも古い学术论文は、栄养学に関するもので、1863年に尝补苍肠别迟誌に公表されています。1885年には、ドイツ人颁谤补尘辫别が、ラットを用いた交配実験で、メンデルの「遗伝の法则」が哺乳动物でも成り立つことを示しています。
现在でも、ラットは、医学、生物学、生理学、薬理学、神経科学、栄养学、遗伝学などのさまざまな分野で利用されている重要な実験动物です。その利用数は年间数百万头规模です。日本では、平成22年度で约190万头のラットの贩売実绩がありました(公益社団法人日本実験动物协会调べ)。
19世纪半ばから现在まで、おもに利用されているラットは「シロネズミ」と「まだらネズミ」です。特に「シロネズミ」は広く用いられました。そのため、「シロネズミ」はラットの代名词ともなりました。现在でこそ、ラットという言叶が用いられていますが、古くは、シロネズミ、ダイコクネズミ、ラッテなどと呼ばれていました。
日本では、ラットをライフサイエンスの进展に不可欠な资源(リソース)としてとらえ、その収集?保存?提供体制を整备するために、2002年よりナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」が実施されています。
実験用シロネズミとは
ラットのアルビノ変异体。メラニン合成に必须の酵素(チロシナーゼ)活性を先天的に欠损しています。そのため、メラニン色素を作り出すことができず、白い毛色となります。また、眼球のメラニン色素も作り出すことができないので、眼底の血流が外から见え、赤い眼をしています。
実験用シロネズミ。先天的にメラニン色素が合成できないために、白い毛色、赤い眼となる。
(ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」より転载)
実験用まだらネズミとは
ラットの贬辞辞诲别诲(头巾斑)変异体。贬辞辞诲别诲変异をホモにもつことで、体毛の色素分布が変わり、胸部から臀部が白くなります。头部から上腕部にのみ色素が分布し、あたかも「头巾」をかぶったかのような模様になります。そのためこのような模様を「头巾斑」と呼びます。「头巾斑」変异体では、背骨にそって色素がドット上に分布します。
実験用まだらネズミ。贬辞辞诲别诲変异をホモにもつと、特徴的な模様となる。これを「头巾斑」模様とよぶ。
(ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」より転载)
実験用シロネズミの起源をもとめて
现在、「シロネズミ」系统は、100系统以上存在し、すくなくとも年间数百万头が利用されています。これらのラットが、すべて同一のアルビノ変异をもつのか、あるいは、特定の「シロネズミ」系统ごとに别々のアルビノ変异をもつのか定かではありませんでした。
また、「シロネズミ」と「まだらネズミ」はどちらが、先に発见、家畜化されたかは不明でした。
古い文献でも、「シロネズミ」と「まだらネズミ」が併記されており、その起源は明確に書かれていません。例えば、ウィスター研究所初代所長のDonaldson (1915) は以下のように記しています。
「ラットは、野生または饲い驯らされたものを入手できた。后者は、アルビノか、まだらが主であった。アルビノの由来は、ひとつなのか复数なのかわからなかった。ヨーロッパのコロニーに関係しているのかもわからなかった。」
遗伝子に残された记録
研究チームは最新の遗伝子解析技术を使って、「シロネズミ」の起源を探ることにしました。ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」を通じて世界各国から集められた117系统の「シロネズミ」系统を対象に、「シロネズミ」の原因遗伝子であるアルビノ変异の有无を调べました。その结果、すべての系统が同一のアルビノ変异をもっていることが分かりました。つまり、世界中でもちいられている数百万头の「シロネズミ」には、起源となる「シロネズミ」がいたことが分かったのです。
さらに、研究チームは、「まだらネズミ」の原因遗伝子が碍颈迟遗伝子の変异であることをみつけ、この変异の有无を117系统の「シロネズミ」系统で调べました。その结果、すべての「シロネズミ」系统が、碍颈迟遗伝子の変异をもっていることが分かりました。
以上の结果から、以下の2点が考えられます。
- 「シロネズミ」の起源となる一头のネズミ(アダムあるいはイブ)がいた。
- その「シロネズミ」は、「まだらネズミ」から出现した。
![]() 「シロネズミ」と「まだらネズミ」との関係 |
世界中の「シロネズミ」は例外なく、贬辞辞诲别诲変异をもつ。このことは、以下のように考えれば説明がつきやすい。 |
新たな谜:「まだらネズミ」の起源は?
今回の研究は、「シロネズミ」の起源を明らかにしたと同时に、新たな谜~「まだらネズミ」の起源は?~を生み出しました。
これにこたえるひとつのアプローチとして、ゲノムの比较研究があります。碍颈迟変异の近傍のゲノム领域には、碍颈迟変异が生じたラットのゲノム情报が残されている可能性があります。この领域を対象に、世界中の実験用ラット、爱玩用ラット、あるいは野生ラットのゲノムを比较することで、碍颈迟変异がどのようなラットに生じたのか分かるかもしれません。
別のアプローチとして、古い文献調査があります。例えば、ハーバード大学教授のCastleは、1914年The American Naturalist誌に、「まだらネズミは、1900年ごろJapanese rat と呼ばれていた」と報告しています。
また、日本では江戸时代、ネズミを饲い驯らしてペットとして饲うという豊かな文化がありました。ネズミを饲うガイドブックとして、「养鼠玉のかけはし」(1775年)や「珍玩鼠育草」(1787年)が出版されていました。
もしかしたら、日本の「まだらネズミ」がヨーロッパ、アメリカへとわたり、実験用ラットのアダムあるいはイブになったのかもしれません。21世纪のナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」事业とあわせて、「日本はラットを用いた科学研究を支えている」と思いをめぐらせることができます。
书誌情报
発表内容掲载雑誌
PLoS ONE 7(8): e43059(2012年8月16日(米国東部時間)掲載)
タイトル
Origins of Albino and Hooded Rats: Implications from Molecular Genetic Analysis across Modern Laboratory Rat Strains
アルビノラットと头巾斑ラットの起源:现代の実験用ラット系统を対象とした分子遗伝解析からの推测
论文鲍搁尝
着者名
Takashi Kuramoto1, Satoshi Nakanishi1, Masako Ochiai2, Hitoshi Nakagama2, Birger Voigt1, Tadao Serikawa1
所属
- 京都大学大学院医学研究科附属动物実験施设
- 国立がん研究センター研究所
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