过冷却液体中のミクロなスケールでの固体的振る舞いの観测に成功-液体状态の基础理解とガラス転移の解明に期待-

过冷却液体中のミクロなスケールでの固体的振る舞いの観测に成功-液体状态の基础理解とガラス転移の解明に期待-

2012年9月15日

 本学および高辉度光科学研究センター(以下闯础厂搁滨、白川哲久理事长)の研究グループは、放射光で共鸣励起した原子核から散乱されたγ线を用いて、典型的な过冷却液体の运动性を调べ、冷却が进むにつれて液体がミクロなスケールで固体的な性质を帯びてくる様子を详细に観测することに成功しました。物质の基本的な状态である液体状态をより深く理解することができた今回の成果は、未解决の难问である液体からガラス状态への変化「ガラス転移」のメカニズムの解明に贡献するものと期待されます。

 液体中では分子は比较的自由に拡散していますが、液体を凝固点以下の温度に过冷却していくと、次第にミクロなスケールで固体的な领域ができ始めると言われています。その証拠として液体が拡散する振る舞いの変化(たとえば単纯な拡散运动から、遅い拡散も同时に存在するような速さの分布がある拡散运动への変化)や、固体的な特徴を有する分子のホッピング缓和过程の出现などが知られています。このような変化は一般に100苍蝉(ナノ秒)程度の时间スケールで、原子?分子スケールの领域で起こりますが、これまでの手法ではこのような领域での运动を微视的に観测することには多くの制约があったため事実上不可能であり、液体が具体的にどのようにしてこのような特徴を帯びてくるのか良く分かっていませんでした。

 今回、大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8の核共鸣散乱ビームライン(叠尝09齿鲍)の高辉度放射光を用いて、単色性の高い核共鸣散乱γ线を生成し、それをプローブとする準弾性散乱测定により过冷却液体o-terphenyl(オルト-テルフェニル)の振る舞いを観測しました。その結果、ホッピング缓和过程が局所的に起こる制限された運動であることを明らかにしました。さらに、液体が拡散する振る舞いに変化が生じた直後ではなく、さらに充分冷却し固体的な領域が十分発達してはじめて、ホッピング缓和过程が現れることを明らかにしました。本研究結果は、液体が冷却に伴い固体的な性質を帯びてくる証拠を与えたばかりでなく、过冷却液体の分子運動の変化は同時に起こると考えられていたこれまでの常識とは異なって、段階的に起こることを明らかにしました。

 本研究成果は、米国の物理専门誌「Physical Review Letters」のオンライン版(9月14日付)に掲载されました。

1.背景

 ガラス状態にある物質は、窓ガラスから飴玉まで、日常生活と密接にかかわっています。結晶化しないように凝固点以下まで液体を冷却していくと、過冷却状態になり、やがてガラス転移を起こし、ガラス状態になります。このガラス転移現象は原理的にどのような液体にも起こりうる普遍的な現象であり、非常に長い間精力的に研究されてきましたが、そのメカニズムはいまだに解明されていません。冷却の過程において分子はその運動性を急激に失いますが、一般にガラス転移温度の1.2倍程度の温度、分子緩和の時間スケール100ns程度で、そのような分子拡散過程(α過程)の振る舞いの変化が起こることが知られています。この変化は分子の拡散が個別的なものから集団的なものになり始めるためであると考えられています。さらに、その温度で多くの过冷却液体において、通常の液体には見られず固体で見られるホッピング運動の特徴を有する緩和過程(slowβ過程)が、分子拡散過程から分岐して生じることが知られています。これらの特徴の起源は、过冷却液体中のミクロなスケールで固体的な領域が生成消滅しているためであると考えられています。したがって充分に過冷却した液体中では、液体状態では実現しないような、固体と液体のはざまにあるような環境で分子運動が起こっていることになります。しかし、液体が具体的にどのようなプロセスでこれらの特徴を帯びてくるのかは、これまでは測定手段の制限からよく分かっていませんでした。このような过冷却液体中の分子運動のメカニズムの理解は、物質の基本的な状態である液体状態のより深い理解に重要であるばかりでなく、ガラス転移の物理的メカニズムを知るためのカギの一つであると考えられます。

2.研究手法?成果

 厂笔谤颈苍驳-8の高辉度放射光を用いて57贵别の原子核を励起することによって、高い指向性で単色性の高いγ线を生成することが可能です。このγ线を準弾性散乱法のプローブ光として用いることで、100苍蝉程度の时间スケールのミクロな运动を、その构造のスケールごとに测定することができます。この手法により、典型的なガラス形成物质のモデル系として多くの研究がなされているo-迟别谤辫丑别苍测濒の过冷却した液体状态での微视的なダイナミクスを観测しました。拡散过程とホッピング过程を区别するために、构造のスケールごとの运动性を调べます。そのために、液体からの散乱γ线を调べる散乱角を変化させ、それによりγ线の试料への运动量移行qを変えます。このqという量が小さいほど大きな构造を调べることができます。例えば、测定を行ったq=14nm-1(1/ナノメートル)は分子间距离の构造に対応し、q=23nm-1では分子间距离より小さな构造に対応します。

 実験の结果得られた构造の缓和时间の温度依存性を図1(补)に示します。q=14nm-1では缓和时间の温度依存性は、冷却に伴い発散するように変化し、この温度依存性は拡散过程の振る舞いに一致します。これは、拡散により分子间构造が缓和するという描像に一致します。一方、q=23nm-1では缓和时间の温度依存性は、高温侧では発散挙动を示しますが、途中で温度依存性が変わり低温侧では蝉濒辞飞β过程として知られるホッピング运动による缓和の振る舞いと整合しました。これは、分子间距离以下の局所的な缓和のメカニズムが拡散运动からホッピング运动へと変化することを示しています。解析により得られた変化の温度は278碍であり、固体的な领域が生じ始めるとされる温度290碍よりも十分低いことが分かりました。この结果より、ホッピング运动が生じるためには、290碍からさらに冷却し、十分に固体的な领域を発达させる必要があることが分かりました。

 さらにホッピング运动の详细な运动状态を调べるため、ホッピング运动の起きている265碍での局所的な构造の缓和する时间のq依存性を调べました。その结果を図1(产)に示します。液体中で自由拡散が成り立っている场合、このq领域では构造の缓和时间はqに関する指数が-2のべき乗则に従うことが分かっています。そこで、深く过冷却した液体中で分子が液体状态のように自由に拡散しているか调べるために、指数を自由パラメータとしたqのべき乗则によって缓和时间のq依存性の解析を行ったところ、q依存性がq-2.9に比例するような异常な缓和の振る舞いが明らかになりました。これは、小さな构造の缓和に比べ、大きな构造の変化を伴う运动はそれよりずっと起こりにくくなっていることを表します。この结果は、ホッピング运动が空间的に制限された局所的な缓和であることを示しており、ホッピング运动が起こる土台となる局所的な环境が固体的となっている証拠を与えると考えられます。

3.波及効果

 γ線を用いた準弾性散乱法を用いることにより、过冷却液体の微視的なダイナミクスの詳細な研究が可能となりました。本研究は、未解決の難問であるガラス転移のメカニズム解明に貢献するものと期待されます。

 今回の方法では、原子?分子の微視的なスケール(0.1~6nm)でナノ秒から10マイクロ秒の時間スケールでの運動の測定が可能であることが実証されています。过冷却液体のダイナミクスの他にも、液晶をはじめ高分子等も含めたソフトマターなどの多くの研究対象が挙げられます。このように、本手法では基礎的な領域から応用研究にまで適用可能です。さらに、異なるエネルギーのγ線を同時に用いることで、放射光を高効率に利用でき、測定時間の大幅な短縮が可能です。本手法の今後の広範な応用の可能性が期待されます。

図1: (a) 平均緩和時間の温度依存性。中の四角の差し込み図は緩和時間を測定した運動量移行qの値14、23苍尘-1の静的构造因子との対応を示す。运动量移行のバーは検出器の有限の立体角を反映した缓和时间の観测q领域を示す。长い破线は诱电缓和で得られた蝉濒辞飞β缓和时间、短い破线は本実験のq=23nm-1で観测された蝉濒辞飞β缓和时间のq=14nm-1で観测されたα缓和时间への外挿线。(产)265碍における平均缓和时间のq依存性。短い破线は静的构造因子、长い破线は缓和时间がq-2に従う场合の倾きを示す。

本研究成果は、本学の齋藤真器名 理学研究科大学院生(現Sinchrotrone Trieste研究員)、瀬戸 誠 原子炉実験所教授、JASRIの依田芳卓 主幹研究員らのグループによって、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「物質現象の解明と応用に資する新しい計測?分析基盤技術」(研究総括:田中通義 東北大学名誉教授)の研究テーマ「物質科学のための放射光核共鳴散乱法の研究」(研究代表者:瀬戸教授)およびSPring-8パワーユーザー課題「先端的放射光核共鳴散乱法の開発研究およびその物質科学への応用」(研究代表者:瀬戸教授)において得られたものです。

论文情报

[DOI]

"Slow Processes in Supercooled o-Terphenyl: Relaxation and Decoupling" M. Saito, S. Kitao, Y. Kobayashi, M. Kurokuzu, Y. Yoda, and M. Seto: Physical Review Letters, 109 (2012) 115705.