2012年9月26日
小野輝男 化学研究所教授、小林研介 同准教授(現大阪大学教授)、中村秀司氏(現産業技術総合研究所研究員)、西原禎孝氏らは、新田淳作 東北大学大学院工学研究科教授(現化学研究所客員教授併任)、好田誠 同准教授、峰野太喜氏、大江純一郎 東邦大学理学部講師およびNTT物性基礎研究所の都倉康弘 博士(現筑波大学教授)らとの共同研究により、強磁性材料や外部磁場を全く用いずに、半導体中を流れる電子のスピンを一方向に揃える手法を確立しました。
本研究成果は、2012年9月25日(日本時間26日)に、英国科学誌「Nature Communications(ネーチャー コミュニケーションズ)」(オンライン誌)に掲載されました。
概要
电子は「电荷」と共に「スピン」と呼ばれる磁石の性质を持ち合わせています。スピンは上向きのスピンと下向きのスピンが存在し、通常半导体を流れる电子のスピンは、上向きスピンと下向きスピンが等しい割合となりスピンの向きに偏りはありません。もしこの电子スピンの向きを上向きもしくは下向きの一方向に揃えることができれば、次世代省电力?高速半导体デバイスの実现が期待できます。しかしながら、これまで电子スピンの向きを揃えるには、强磁性体材料を用いる方法や外部から磁场を与える必要があり、既存の半导体プロセスや集积化技术と组み合わせることが困难な问题を抱えていました。このことから、半导体のみを用いてスピンの向きが揃った电流を生み出すことが长い间望まれていました。
今回スピンを揃える手法として着目したのは、1922年にドイツ人科学者オットー?シュテルンとヴァルター?ゲルラッハにより行われた、银原子の上向きスピンと下向きスピンの空间分离実験です。この実験は、量子力学の基本概念であるスピンの存在を明らかにした20世纪最大の実験の一つであるとともに、スピンを揃えるための原理を示しました。ただし、実験装置の大きさは1メートル以上の大掛かりなものでした。
研究グループでは、このシュテルン-ゲルラッハのスピン分离実験を、半导体のスピン轨道相互作用を用いることでナノメートルサイズのトランジスタで実现し、强磁性体や外部磁场を全く用いずに、スピンの揃った电流を生み出すことに成功しました。半导体のみを用いる本手法は、既存の半导体テクノロジーとの整合性が良いだけでなく、电気的なスピン制御?スピン検出との融合が容易となることから、次世代省电力?高速半导体デバイスの実现が可能となります。
図 (a)今回行った半導体中でのシュテルン-ゲルラッハ実験の模式図 (b)スピン流を生み出すために用いたナノメートルサイズのトランジスタ構造 (c)弱い有効磁場と強い有効磁場における伝導度のサイドゲート電圧依存性測定結果 (d)伝導度0.5(2e2/丑)におけるスピン偏极率の测定结果
本研究の一部は、最先端?次世代研究开発支援プログラム、科学研究费补助金基盘研究(厂)、京都大学科学研究所共同研究プログラムの助成を受けて行われました。
用语解説
スピン
电子が本来持っている自転のような性质で磁石が発する磁场の起源となる。磁石に狈极と厂极があるように、电子スピンには上向きと下向きという二つの状态があり、物质中でスピンの性质を利用するには电子スピンの向きを揃えることが必要不可欠となる。
シュテルンとゲルラッハによるスピン分离実験
1922年ドイツのオットー?シュテルンとヴァルター?ゲルラッハが银の原子线を用いて行った実験。加热して蒸発させた银粒子のビームに垂直な方向に磁场勾配をかけると、ビームが2本に分かれることを示した。この実験により、银が量子化された磁気モーメントをもつことがわかり、后にスピンという概念を导く契机となった。
书誌情报
[DOI]
"Spin-orbit induced electronic spin separation in semiconductor nanostructures"
Makoto Kohda, Shuji Nakamura, Yoshitaka Nishihara, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono, Jun-ichiro Ohe, Yasuhiro Tokura, Taiki Mineno, and Junsaku Nitta Nature Communications 3, Article number: 1082, 2012/09/25/online.