2013年1月21日
近年、インターネットの爆発的な普及に伴い、日々、取り扱われる情报?通信量が増加しています。これらのネットワークの核となるデータセンター等は、ますます复雑化?巨大化するため、その集积化?小型化が极めて重要となっていくと考えられます。しかし、巨大化、集积化に伴って、消费电力量の増大や、热暴走と呼ばれる発热による误动作などが悬念されます。このような课题に対処していくためには、复雑化する电子デバイス?回路の电気配线の一部を光配线化し、光による通信?信号処理技术を导入し、光と电子を融合させたシステムを构筑することが有効であると考えられます。しかしながら、现在の光配线技术では、微小领域での立体配线が难しく、上记の用途に适した光配线技术は确立されているとは言えません。ここで、もし极微小な领域で、3次元的に光を自在に配线可能な技术を构筑することができれば、上记の课题に対処し得る、极めて重要な技术として位置づけられると期待されます。また、微小なチップ中に様々な光?电子机能を集积した、将来の光电子技术の核としても期待されます。
野田進 工学研究科教授、石崎賢司 同助教等の研究チームは、このような3次元光立体配線技術の確立に向けて、3次元フォトニック結晶と呼ばれる、立体的な人工光ナノ構造体(構成材料はSi)を用いることで、極微小な領域で光を3次元的に曲げ伸ばし可能な、立体光配線に初めて成功しました。
本研究成果は、2013年1月21日(日本时间)に英科学誌ネィチャー?フォトニクスの电子版速报に掲载されました。(印刷版では2013年2月号に掲载される予定です。)
概要
上記のように、今後、ネットワークの核となるデータセンター等は、ますます複雑化?巨大化するため、これらを出来る限り、集積化?小型化(究極的 にはワンチップ化)していくことが、極めて重要となっていくと考えられます。図1(a)は、そのようなチップにおける、電子回路の概念図を示しています。このようなチップは、通常、演算部と配線部が集積されていますが、演算部の集積が進むにしたがって、演算部を結ぶための電気配線は、極めて複雑化し、多層に渡る膨大な配線が必要となります。このとき、演算部?回路部における、エネルギー損失の増加による消費電力の増大や、発熱による熱暴走などの誤動作が、深刻な問題となると考えられます。このような問題に対して、複雑化する電子回路の一部を光配線化し、光による通信?信号処理技術を導入し、図1(b)に示すような、光と電子を融合させたシステムを構築することが有効であると考えられます。しかしながら、図1(b)のように、微小な領域で光の経路を3次元的に曲げ伸ばしすることは、容易ではありません。なぜなら、光は、通常、空間中を自由に伝搬することができるために、配線を曲げた部分から、漏れ出してしまうためです。
本研究では、光の存在を许さないという特徴を有する立体的な光ナノ构造である、「3次元フォトニック结晶」を活用し、配线を曲げた部分からの光の漏れを无くすることで、自在な3次元立体光配线の基盘技术の构筑を行いました。図1(肠)は、その概念図を示しています。光配线が必要な部分に、3次元フォトニック结晶を配置することで、この部分において、一旦、光が存在(伝搬)できないようにします。その上で、図1(诲)のように、构造の内部に、人工的な光の通り道(「光导波路」と呼ばれる)を形成すれば、たとえ急峻な曲げがあっても、光は外に漏れ出すことはないため、光を自由に立体的に伝搬させることができるものと考えられます。
図1 半導体チップの立体光配線化の概念
(补)半导体チップ(电子回路)の概念図。复数层に渡る膨大な电気配线により构成される。
(产)电気配线の一部を光配线化した构造の概念図。配线の色の违いは、様々な波长の光が利用できることを示している。
(c)、(d) 3次元フォトニック結晶を用いた光配線の概念図。(c)のような3次元フォトニック結晶の内部に、(d)のような配線構造が導入される。
このような考えを実现するために、まず、水平方向への光导波路について検讨を行いました。図2(补)は、水平方向の导波路の概要を示しています。水平方向に光を伝搬させるために、容易に考えられる构造として、3次元フォトニック结晶を形成しているストライプの1本を、取り除くことを考えました。この导波路の特性について解析した结果、水平方向に対して、広い波长域の光が、伝搬できることがわかりました(図2(补)下段)。そこで次に、垂直方向に导波路を形成することを考えました。まず、図2(产)のように、ストライプの一部を取り除いた构造を垂直方向に积み重ねて导波路を形成することを考えましたが、このような垂直方向の导波路を伝搬できる波长域は、水平导波路のものとは全く异なっており、このままでは立体的な配线として利用できないことが判明しました。そこで、视点を変えて、导波路を「斜め」方向に导入することを検讨しました。具体的に、図3(补)に示すような斜め方向の导波路について解析したところ、水平方向の导波路の特性とうまく一致する特性が得られることがわかりました。このような特性が得られたのは、3次元フォトニック结晶の「结晶构造」を考虑すると、実は、水平方向と斜め方向が等価な结晶方位となるためであることが、明らかになりました。さらに、この斜め导波路から外部にどのように光が取り出されるのかについて検讨を行ったところ、导波路自体は斜め方向に倾いているにもかかわらず、図3(产)に示すように、ほぼ垂直方向に対して、光が伝搬し、取り出されることがわかりました。このことより、斜め导波路を、垂直导波路として、外部からの光入出力にも利用できることがわかりました。
図2 3次元フォトニック結晶への光導波路の導入
(a) 水平方向の導波路の模式図と伝搬特性
(b) 垂直方向の導波路の模式図と伝搬特性。水平方向の導波路の特性と大きく異なっており、水平―垂直方向の効率的な連結が得られないことがわかる。
図3 3次元フォトニック結晶への斜め光導波路の導入
(a) 斜め方向の導波路の模式図と伝搬特性。水平方向の導波路の特性とよく一致しており、立体的な接続が可能であると期待される。
(b) 斜め方向導波路と外部空間との結合特性。斜め方向の導波路から、垂直方向に光が取り出されることがわかる。
このように、新たな斜め方向の导波路の発见により、水平方向と斜め方向の导波路を、広い波长域で接続し、立体的な配线を构成する準备が整いました。そこで、これらの导波路を接続し、本当に接続部を光が伝搬できるのかを调べました。図4(补)のように両者を接続した构造を考え、接続部を光が伝搬できるのか解析しました。まず、図4(产)のように导波路を直接接続した场合には、水平方向と斜め方向の导波路の波长域は一致しているにも関わらず、光は接続部をほとんど通り抜けられないことがわかりました。つまり、水平导波路から来た光は、接続部で反射され、水平导波路に戻ってしまい、立体的な光配线としては机能しないことがわかりました。そこで、接続部の工夫を行ったところ、水平方向の导波路を少し延长させた构造を导入することで、図4(肠)のように、反射されることなく、ほぼ100%の光が伝搬できることが明らかとなりました。ここでは、水平方向と斜め方向の接続のみを示しましたが、さらに、斜め方向の导波路同士、水平方向の导波路同士の连结など、全ての接続构造において、広い波长域で高い効率で接続できることを明らかにすることにも成功しています。
図4 導波路の立体的な接続
(a) 水平導波路-斜め導波路の接続構造の概念図
(b) 単純な接続構造の模式図と接続部の透過特性。接続部の透過率が10%以下と小さいことがわかる。
(c) 最適化された接続構造の模式図と連結部の透過特性。水平導波路をわずかに延長(1周期分)することで、全ての波長域で、曲げ部分の透過率が高くできることがわかる。
以上のように、水平导波路と斜め导波路を用いることで、曲げがある场合にも効率よく光を伝搬させることが可能であり、微小领域での自在な立体光配线が可能であることが、理论的に明らかになりました。そこで次に、図5(补)に示すように、斜め导波路-水平导波路-斜め导波路を顺番に接続した构造を作製し、立体的な光配线を実証することを试みました。立体光配线构造の作製においては、ウエハ融着法と呼ばれる接着技术を用いて、ストライプ状の层を积层していく手法を用いました。具体的には、はじめに、斜め方向や水平方向の导波路のパターンをあらかじめ含んだストライプ状のパターンを必要な层数分だけ用意し、続いてそれらを顺次积层していくことで、立体配线构造を含む3次元フォトニック结晶を作製しました。ここで、いかに精度よく积层できるかが、立体光配线の特性に影响を与える可能性があるため、新たに、画像解析技术を援用した自动位置合わせ积层システムを开発し、100ナノメートル以下の精度で、任意の层数を精密に积层することを可能にしました。また、今后の、様々な电子デバイスや光デバイスとの集积化を视野に入れて、电子?光デバイスにおいて用いられているシリコンを、フォトニック结晶の材料として用いました。図5(产)は、実际に作製した构造における、斜め导波路と水平导波路の接続部分の上面电子线顕微镜写真を示しています。500ナノメートルの间隔をもつストライプ状のパターンを积层した立体构造に対して、1本のストライプを取り除いた水平导波路、ストライプの一部を取り除いた部分を斜め45度方向に连ねることで形成した斜め导波路が导入されていることが见て取れます。なお、接続部分においては、効率よく光が伝搬できるように、水平导波路の延长构造を导入しました。ここで、図5(产)の観察は、作製の途中段阶で行ったものであり、最终的に、図5(产)の构造の上部に残りの3次元フォトニック结晶を积层し、立体配线构造を3次元フォトニック结晶の内部に完全に埋め込みました。このような立体配线构造において、入力用の斜め导波路部分に垂直方向から光を入力し、光が伝搬する様子を光学顕微镜を用いて観察した结果を図5(肠)に示しています。図5(肠)より、出力用の斜め导波路の部分のみから、明らかに光が取り出されていることがわかり、立体配线构造を通じた光配线を実现することに成功したといえます。
図5 立体光配線構造の作製と光伝搬の観測
(a) 斜め導波路-水平導波路-斜め導波路を連結した立体光配線構造の概念図
(b) 作製した構造の上面電子線顕微鏡写真。作製の途中段階で、水平導波路と斜め導波路の接続部を観察した写真であり、最終的に、この構造の上部に残りの3次元フォトニック結晶が積層され立体配線が埋め込まれる。
(c) 伝搬光の顕微鏡観察結果。出力用の斜め導波路部から光が出力される様子がわかる。
本研究では、さらに発展的な构造として、図6に示すような、様々な立体光配线についても、作製を行い、光伝搬の実験を行いました。図6(补)のような水平导波路同士の直角曲げを导入した构造、図6(产)のような水平导波路の分岐を含む构造、そして図6(肠)のような共振器(特定の波长の光のみを通すことができる)を介した配线构造などの作製にも成功し、これらの立体光配线に沿って光が伝搬し、外部に取り出される様子を、観测することに成功しました。
図6 様々な立体配線構造の実現
(a) 水平導波路を直交させて接続した構造を含む立体配線の概念図と伝搬光の顕微鏡観察結果
(b) 水平導波路を分岐させた構造を含む立体配線の概念図と伝搬光の顕微鏡観察結果
(c) 共振器(特定の波長の光のみ伝搬させる)を介した光配線の概念図と伝搬光の顕微鏡観察結果
以上のように、3次元フォトニック结晶构造を活用し、その内部に光の通り道となる导波路を形成することで、微小な领域での曲げを含む立体光配线の実証に初めて成功しました。今回実証した、様々な接続构造を组み合わせることで、自在な立体光配线が可能であり、高効率?低损失な情报?通信システムの构筑に向けた、重要技术と位置づけられます。また、このような立体光配线技术は、微小なチップ中に様々な光?电子机能を集积化した、より将来の新たな光电子技术の核としても期待されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) CREST、経済産業省プロジェクト、光拠点の援助を受けました。
书誌情报
[DOI]
Ishizaki Kenji, Koumura Masaki, Suzuki Katsuyoshi, Gondaira Kou, Noda Susumu.
Realization of three-dimensional guiding of photons in photonic crystals.
Nature Photonics, 2013/01/20/online.
- 京都新聞(1月21日 3面)、日本経済新聞(1月22日 14面)および科学新聞(2月15日 4面)に掲載されました。