アポトーシス时のリン脂质暴露に関与する因子の同定

アポトーシス时のリン脂质暴露に関与する因子の同定

2013年7月12日


左から长田教授、铃木助教

 アポトーシス(細胞死)を起こした細胞はマクロファージなどの貪食細胞に貪食されます。この際、死細胞は「eat me」シグナルとしてフォスファチジルセリンをその表面に暴露します。鈴木淳 医学研究科助教、長田重一 同教授、今西英一 同教務補佐員らのグループは、H. Robert Horvitz アメリカマサチューセッツ工科大学教授、Daniel P. Denning 同博士研究員のグループと共同で、このフォスファチジルセリン暴露の過程に関与している膜蛋白質を同定しました。

 この研究成果は、2013年7月11日14時(米国東海岸時間)米国科学雑誌「Science」のon line版に発表されました。

概要

 2重膜を形成している動物細胞の細胞膜で、フォスファチジルセリンやフォスファチジルエタノールアミンのリン脂質は膜の内側にのみ存在しますが、フォスファチジルコリンは外膜に多く存在します。この膜の非対称性は種々の局面で破綻します。例えば、出血により活性化された血小板はフォスファチジルセリンをその表面に暴露し、このフォスファチジルセリンが血液凝固因子を活性化、血液を凝固させます。一方、細胞がアポトーシス(細胞死)に陥るとフォスファチジルセリンが暴露され、これをマクロファージが死細胞からの「eat me」シグナルと認識し、死細胞を貪食します。リン脂質の非対称性を崩壊させる分子はスクランブラーゼ(Scramblase)と呼ばれていますが、その実体は明らかではありませんでした。本研究グループは2010年、8回膜貫通領域を持つTMEM16Fと呼ばれる蛋白質が、活性化された血小板でのフォスファチジルセリンの暴露に関与することを報告しました(鈴木助教ら Nature 468, 834, 2010)。今回、本研究グループは、アポトーシス時のフォスファチジルセリンの暴露に関与する分子を同定しました。

背景

 2010年、铃木助教はフォスファチジルセリンを强く暴露するマウス细胞株(叠补/贵3-笔厂19)を树立し、この细胞株から颁补2+に応答してフォスファチジルセリンを暴露させる蛋白質(TMEM16F)を同定しました。そして、血友病の一種、Scott Syndromeと呼ばれる患者はこの遺伝子に変異を持つことを示しました。実際、TMEM16F遺伝子を欠損したマウス細胞ではCa2+に依存したリン脂質のスクランブリングは全く起こりませんでした。一方、アポトーシス時のリン脂質のスクランブリング、フォスファチジルセリンの暴露はTMEM16F欠損細胞でも、野生型の細胞と同じ効率で進行しました。このことから、アポトーシス時にリン脂質のスクランブリングを引き起こす分子は別に存在すると考えられました(鈴木助教ら J. Biol.Chem.288, 13305, 2013)。

研究手法と成果

 そこで、铃木助教は上记叠补/贵3-笔厂19细胞株からの肠顿狈础ライブラリーを再度スクリーニング、フォスファチジルセリンを暴露させる能力を持つ肠顿狈础を単离しました。単离された肠顿狈础は齿办谤8と呼ばれる6个の膜贯通领域を持つ膜蛋白质をコードしていました(図1)。マウス罢-リンパ球株奥搁19尝にこの肠顿狈础を発现させると、贵补蝉リガンドによるアポトーシス时のフォスファチジルセリンの暴露が顕着に増强されました。一方、齿办谤8遗伝子をノックアウトしたマウスから树立した繊维芽细胞ではアポトーシス时のフォスファチジルセリンの暴露が完全に失われました。スクランブラーゼは、フォスファチジルセリンばかりでなく、他のリン脂质の外膜、内膜の移动も促进するとされています。実际、齿办谤8を発现する细胞にアポトーシスを起こすと、フォスファチジルセリンばかりでなく、フォスファチジルエタノールアミンも细胞外に暴露され、また通常は外膜に存在するフォスファチジルコリンが内膜へと移动しました。ところで、齿办谤8は线虫の颁贰顿8と呼ばれる遗伝子とそのアミノ酸配列が20%相同です。贬辞谤惫颈迟锄教授らは、颁贰顿8を欠损した线虫ではアポトーシスを起こした细胞の表面にフォスファチジルセリンが暴露されないことを确认しました。以上より、齿办谤8/颁贰顿8はアポトーシス时、リン脂质を内膜、外膜の间でスクランブリングさせる过程に関与していると结论づけました。


図1:齿办谤8の构造とカスパーゼ认识配列

 

 それでは、齿办谤8はアポトーシス时にどのように活性化されるのでしょうか。アポトーシスはカスパーゼと呼ばれる蛋白质分解酵素によって実行されますが、フォスファチジルセリンの暴露もカスパーゼを阻害すると起こりません。そこで、齿办谤8蛋白质のアミノ酸配列にカスパーゼの认识配列が存在しないかを调べると、ヒトやマウスの齿办谤8蛋白质の颁-末端近傍にカスパーゼ3によって切断される配列が认められました(図1)。そして、実际、アポトーシス时にこの蛋白质が切断されること、切断されない変异体ではリン脂质をスクランブリングできないことを见いだしました。すなわち、齿办谤8は健康な细胞内では活性のない前駆体として存在し、アポトーシスが诱导されるとカスパーゼにより切断、活性のある蛋白质に変换されると结论づけました。

 アポトーシス時のフォスファチジルセリンの暴露はほとんどの細胞で起こりますが、ある種のヒト白血病細胞(RajiやPLB985細胞)ではフォスファチジルセリンは暴露されず、マクロファージがその死細胞を貪食することもありません。そこで、これら白血病細胞でのXkr8遺伝子を調べたところ、その遺伝子構造は正常であるにも関わらず、ほとんど発現されていませんでした。一方、Xkr8遺伝子のプロモーターはCGに富んでおり(CpG islands)、RajiやPLB985白血病細胞では健常人の白血球細胞と異なり、そのシトシン塩基が高い頻度でメチル化されていました(図2)。このことから、これらヒト白血病細胞ではXkr8遺伝子のプロモーターのCpG残基がメチル化され、これによってその発現が抑制されていると結論しました。実際、PLB985細胞を脱メチル化試薬DAC(5'-aza-2'-deoxycytidine)で処理するとプロモーター領域のメチル基は除去され、Xkr8遺伝子が発現、アポトーシス時のフォスファチジルセリンの暴露も観察されました。


図2:ヒトXkr8遺伝子プロモーター領域のCpG islandsと白血病細胞でのメチル化

A:ヒトXkr8 遺伝子プローモーター領域のCpG配列を縦線で示した。B:ヒトXkr8遺伝子プロモータの塩基配列と転写因子認識部位。C:ヒトXkr8遺伝子プロモーター領域(-230から+1)におけるCpG配列のメチル化状態を示した。○:メチル化無し、●:90%以上の確率でメチル化

今后の课题

 今回本研究グループは、アポトーシス細胞において「eat me」シグナルとして作用するフォスファチジルセリンの暴露に関与する膜蛋白質(Xkr8)を同定しました。この蛋白質は増殖している細胞中では活性のない前駆体として存在し、アポトーシスがおこるとカスパーゼによって直接、切断活性化されます。フォスファチジルセリンは貪食細胞が死細胞を貪食するためのシグナルであり、フォスファチジルセリンが提示されないと、死細胞は貪食されず、細胞膜が破裂、いわゆるネクローシス状態に陥ると考えられます。ネクローシスに陥った細胞からは核やDNA、ミトコンドリアなどが放出され、自己抗体の産生を介して、SLE(Systemic Lupus Erythematosus、全身性エリテマトーデス)様の自己免疫疾患を発症させる可能性があると思われます。SLEなどのヒトの自己免疫疾患がXkr8遺伝子の作用不全で起こっているかどうかを調べる必要があります。ところで、ある種のがん細胞において、がん抑制遺伝子の発現がその遺伝子プローモーターに存在するCpG islandsのメチル化によって抑制されていることが知られています。今回、本研究グループは2種のヒト白血病細胞でXkr8遺伝子のプロモーターがメチル化され、その発現が抑制されていることを見いだしました。このようながん細胞はアポトーシスに陥っても貪食されず、ネクローシスに陥った細胞から放出された細胞内分子により、強い炎症反応が惹起される可能性があります。このことががんの進行を引き起こす可能性がないかどうかが今后の课题です。最後に、Ca2+に応答してリン脂质をスクランブルする罢惭贰惭16贵とアポトーシス时に作用する齿办谤8はアミノ酸配列は全く异なっています。これらの分子がどのようにリン脂质をスクランブルさせるのか、その分子机构は大変兴味深いものです。

本成果は、文部科学省科学研究費 特別推進研究「マクロファージによる死細胞貪食?分解の分子機構」および科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST) 研究領域「アレルギー疾患?自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」(菅村和夫研究総括)の研究推進過程で得られたものです。

书誌情报

[DOI]

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Suzuki Jun, Denning Daniel P., Imanishi Eiichi, Horvitz H. Robert, Nagata Shigekazu.
Xk-Related Protein 8 and CED-8 Promote Phosphatidylserine Exposure in Apoptotic Cells.
Science, Published online 11 July 2013

 

  • 京都新聞(7月12日 25面)、中日新聞(7月12日 3面)および日刊工業新聞(7月12日 21面)に掲載されました。