花粉を运ぶ昆虫が花の匂いの性的二型を引き起こした

花粉を运ぶ昆虫が花の匂いの性的二型を引き起こした

2013年10月23日

 岡本朋子 森林総合研究所研究員/日本学術振興会特別研究員(人間?環境学研究科)と加藤真 人間?環境学研究科教授らの研究グループは、花粉を運搬する昆虫(ホソガ科ハナホソガ属蛾類)との特異な共生関係が、花の匂いの性的二型を引き起こすことを発見しました。

 この成果は、日本時間2013年10月23日午前8時(英国時間2013年10月23日0時)、英国の学術専門誌「Proceedings of the Royal Society B, Biological Sciences」にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 被子植物では稀な、花の匂いの性的二型を発见
  • 花粉を运ぶ昆虫(送粉昆虫)との特异な共生関係が花の匂いの性的二型を进化させたことを立証

概要

 クジャクの羽やカブトムシのツノなど、多くの动物では雌と雄で异なる形质を持つこと(性的二型)が知られています。ところが、このような性的二型の现象は主に动物のみで知られ、被子植物の花の形や色、においなどが雌雄で异なることは稀と考えられてきました。研究グループらは、花粉を运搬する昆虫(ホソガ科ハナホソガ属蛾类)との特异な共生関係が、花の匂いの性的二型を引き起こしたことを発见しました。

背景

 多くの被子植物は昆虫などの动物によって花粉が运ばれます。送粉动物は花蜜や花粉などを求めて花を访れ、その际、偶然体に付着した花粉が雌しべに运ばれることで、受粉が成立します。雄花と雌花を别々に咲かせる植物では、同种の花粉を持った动物が雌花を访れることが受粉成立に重要であるため、雌雄间で见た目やにおいを似せて、同じ动物を花へ呼び寄せなければなりません。

 ところが、ハナホソガ属の蛾类では、コミカンソウ科植物の雄花と雌花を明确に区别し、それぞれの花で能动的に花粉を集め、运び、付けることが知られています(図1)。


図1:口吻を使って巧みに花粉を集めるハナホソガ(左)と、その後雄花で集めた花粉を雌花の柱頭に付けるハナホソガ(右)。このように積極的に花粉を運ぶことを能動的送粉(Active pollination)と言い、イチジクコバチやユッカガなど一部の昆虫が行うことが知られています。

 ハナホソガが能动的に花粉を运ぶのは、植物のためではありません。幼虫が种子食であるハナホソガは、我が子の饵である种子の结実を确実にするために、能动的に授粉しているわけです。1种のコミカンソウ科植物は1种のハナホソガだけに送粉(花粉の运搬)を依存しているため、両者は繁殖を委ね合う関係といえます(絶対送粉共生と呼ばれます)。

 夜行性のハナホソガは自らの繁殖のために、夜の暗闇の中、数多くの木々の中から我が子の揺りかごとなる植物を选び出し、雄花と雌花を见分けています。つまり、互いが繁殖を行うためにはハナホソガが雄花と雌花を见分けて行动することが必须といえます。

 このような関係でキーとなるのが、多くの夜行性の生物が情报として用いている「匂い」です。一般的な被子植物とは异なり、ハナホソガによって花粉が运ばれる植物では、雄花と雌花の匂いが似る必要はありません。むしろ、异なる方がハナホソガが花を见分けやすくなると考えました。本研究は、「ハナホソガによって花粉が运ばれる植物では花の匂いが雌雄で异なる」ことを検証したものです。

研究内容

 ハナホソガによって花粉が运ばれる植物では、雌雄で花の匂いの违いが见られるかどうかを、ガスクロマトグラフ质量分析计によって分析したところ、カンコノキの雌雄で花の匂いが顕着に异なるという结果が得られました(図2)。一方、同じコミカンソウ科植物の中でも、ハナホソガ以外の昆虫(ハナバチなど)によって花粉が运ばれる植物では、雄花と雌花の匂いが非常に似ることも明らかになりました(図2)。


図2:花の匂いの类似性を示した散布図

数字は植物の种、数字の色は性(赤:雌花、青:雄花)を示します。また、緑色で囲った种はハナホソガによって花粉が运ばれるもの、黄色はハチやハナアブなどに偶然花粉が运ばれるものを示しています。

 さらに、このような花の匂いの性的二型が、ハナホソガとの関係を通じて作り出されたかどうかを调べるために、植物の顿狈础を解析し、分子系统树を作成しました(図3)。その结果、花の匂いの性的二型は、これまでに独立に3回起源しており、それらはハナホソガによる花粉媒介の起源と一致していました。


図3:植物の分子系统树

数字と色は図2と対応。図中(6)~(10)は花の匂いに性的二型が见られ、それに近縁な(5)では见られません。これらの违いはハナホソガによって花粉が运ばれるかそうでないかによります。

 また、花粉を集めた経験のないハナホソガに雄花と雌花の匂いを提示してどちらに诱引されるかを调べたところ、雄花の匂いを好むことが明らかになりました。つまり、ハナホソガは雄花と雌花の匂いを嗅ぎ分けることができることを示しています。これらの结果はすべて、ハナホソガの能动的送粉行动が、花の匂いの性的二型を引き起こすことを示しています。

 これまでに花の匂いの役割として、送粉者の花への诱引は数多く解明されてきたものの、花の匂いの多様化や进化に送粉者との相互作用が明确に関わってきたことを示した研究は非常に稀です。

 また、昆虫が「匂い」という目に见えない情报を巧みに使い、复雑な繁殖行动を达成していることを、本研究は示しました。これは、体长数ミリの小さな昆虫に秘められた复雑な情报処理システムを垣间みる结果であると言えます。

书誌情报

[DOI]

Tomoko Okamoto, Atsushi Kawakita, Ryutaro Goto, Glenn P. Svensson, and Makoto Kato
"Active pollination favours sexual dimorphism in floral scent"
Proceedings of the Royal Society B, Biological Science, vol.280, no.1772, 23 October 2013

 

  • 朝日新聞(11月14日 19面)、京都新聞(10月23日夕刊 8面)および日刊工業新聞(10月25日 21面)に掲載されました。