2013年11月6日
薄良彦 工学研究科講師らのグループは、センシングにより収集されたデータを用いて、大規模電力システムの安定性を判別するための新技術の開発に成功しました。この技術により電力システムの状态监视技术の高精度化が可能になるとともに、さまざまな社会的要求に応える分散协调型エネルギー管理システムの実现が期待されます。
本研究成果は2013年11月6日(米国東部時間)に、米国学術誌「IEEE Transactions on Power Systems」のEarly Accessにて発表されました。
背景
分散協調型エネルギー管理システム(Energy Management System: EMS)の構築において、エネルギーシステムの状态监视は基盤技術の一つです。2000年代より世界各地で発生してきた広域大停電では、大規模電力システムの状态监视が不十分であったことが主要原因の一つとされています。また、太陽光や風力などの分散型再生可能エネルギー源では出力が複雑に変動することから、従来の火力?原子力などの集中型電源で構成される電力システムと異なり、再生可能エネルギーの大量導入された将来の電力システムでは状態把握が極めて難しいものとなります。このような技術的背景より、大規模電力システムの状態を正確でかつ迅速に監視する技術の実現は重要な課題とされ、多くの研究開発が進められてきました。エネルギーシステムの状态监视技術は需給管理などのEMSのさまざまな側面で必要なものであり、この技術の開発は安定性を确保しつつさまざまな社会的要求を実现する分散协调型贰惭厂の开発につながるものです。
研究手法?成果
本研究では、大规模电力システムのセンシングにより得られたデータに基づいて安定性を判别する技术を新たに开発し、2006年欧州および2011年米国で発生した大规模故障の実测データへの适用により、その有効性を示しました。本技术では、センシング技术や情报通信技术などの进展により、最近利用可能になってきた大规模电力システムにおける电力の流れ(电力潮流)の时空间変动データをコンピュータで処理することにより、対象とする电力システムの安定性维持および丧失を判别します。ここで用いた処理手法では、力学系理论に基づく非线形クープマンモード解析と呼ばれる新手法を採用しており、このデータ解析手法を用いることにより、従来困难であった広域大停电に至るような复雑な电力潮流の解析と电力システムの安定性判别が初めて可能になりました。
下図は、本研究で开発した技术を2006年に欧州电力システムで発生した大规模故障时の电力潮流データに适用した结果を示しています。図中础は欧州电力システムの8地域の电力融通量偏差(実际の电力融通量と当初计画された融通量との差)の时系列データであり、电力融通量の复雑な时间変动を示しています。図中础の时系列データに本研究で开発した技术を适用することにより、电力融通量偏差が発散倾向を有し、电力システムの安定性が失われていることを明らかにしました(図中叠は図中础の时系列データから得られた离散スペクトル(固有値)であり、単位円の外侧にあるスペクトルは时系列が発散倾向(电力システムが不安定)となる証拠になっています)。実际、図中础の时系列データ后の时刻に行った変电所制御により、欧州电力システムでは故障の波及的伝搬が発生し、その结果、最终的に欧州电力システムは3地域に分断される结果となりました。この适用结果は、データに基づく安定性判别が力学系理论に基づく本技术により可能であることを示しています。なお、発表论文中では、2011年米国で発生した大规模故障时の电力潮流データに対しても本技术を适用し、复雑な电力潮流の时间変化と故障の波及的伝搬との関係を明らかにしています。
波及効果
本技术はエネルギーシステム、情报処理、力学系理论の融合により得られた研究成果であり、その汎用性は高く、电気エネルギーを扱う电力システムのみならず、电気エネルギーやガス、热など复数のエネルギーを同时に供给するマルチエネルギーシステムに対しても适用可能です。センシング技术や情报通信技术の飞跃的な进展にともない、エネルギーシステムにおいて大量のセンシングデータ、ビッグデータの収集が可能になってきており、このデータを统合?解析し、どのようにエネルギー管理に生かしていくかが重要な技术课题となっています。このような课题に対して本技术は解决の糸口を与えるものであり、本技术の波及効果は大きく、分散协调型贰惭厂の构筑に向けた基盘技术として重要な成果と考えられます。
今后の予定
今后は、本研究で开発した技术と発电量予测技术等との融合により分散协调型贰惭厂の実现に寄与していきます。
本研究は、下记机関より资金的支援を受けて実施されました。
- 科学技术振兴机构(闯厂罢)戦略的创造研究推进事业颁搁贰厂罢(研究课题名:マルチエネルギーシステムの动的解析技术、研究代表者:薄良彦)
- 伊藤忠兵卫基金(研究课题名:有限时间ダイナミクスのデザインと电気応用工学、研究代表者:薄良彦)
用语解説
状态监视(state monitoring)
电力システムの周波数分布、电圧分布、电力潮流などの时间変化をオンラインで见张ること
エネルギー管理システム(Energy Management System:EMS)
再生可能エネルギーをはじめとする多様なエネルギー源とさまざまな利用者をつなぎ、エネルギー需给の最适制御や安定性の确保などのさまざまな社会的要求を実现する制御システムの総称
安定性(蝉迟补产颈濒颈迟测)
自然変动や电力机器の故障などのさまざまな扰乱に対しても电力システムがエネルギー需给のバランスを保ち続ける性质のこと。电力システムが确保すべき基本的な动的性质の一つとされている。
非线形クープマンモード解析(Nonlinear Koopman Mode Analysis)
时系列データの力学系理论に基づく解析手法の一つであり、非线形性に起因する复雑な时系列データをモードと呼ぶ复数の时系列に分解する手法。プローニ(笔谤辞苍测)法のように时系列データを生成する関数を仮定することなく、时系列データからモードを直接计算することが可能である。
书誌情报
[DOI]
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Yoshihiko Susuki and Igor Mezic,
"Nonlinear Koopman modes and power system stability assessment without models"
IEEE Transactions on Power Systems 6 Nov 2013 (online published in Early Access)
- 科学新聞(11月22日 6面)、電気新聞(11月15日 2面)および日経産業新聞(11月12日 10面)に掲載されました。