楠見明弘 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS =アイセムス )教授(沖縄科学技術大学院大学教授)、木曽真 同教授(岐阜大学応用生物科学部教授)、鈴木健一 同准教授、安藤弘宗 同准教授(岐阜大学応用生物科学部准教授)、河村奈緒子 同研究支援員らの研究グループは、細胞膜の構成成分で、細胞膜の重要な働きを担う特殊な糖脂質、ガングリオシドの細胞膜上での動きや分布の可視化に世界で初めて成功し、ガングリオシドがウィルス?毒素などの細胞内侵入に大きく関わる細胞膜の分子集合体である「筏(いかだ)ナノドメイン」の形成に関与することを見出しました。
一方、病因物质が细胞内に侵入するときには、细胞膜の筏ナノドメインを上手に乗っ取って侵入することが示唆されています。本研究で开発された方法と得られた结果は、侵入机构の解明のための大きな一歩であるばかりでなく、侵入を阻止する薬剤开発にも寄与するものと考えられます。
本成果はロンドン時間2016年4月4日16時(日本時間5日午前0時)の週に米科学誌「Nature Chemical Biology」オンライン速報版で公開されました。
研究者からのコメント
左から楠见教授、木曽教授、铃木准教授、安藤准教授、河村研究支援员
本研究によって、生きている细胞膜上でのガングリオシドの动态と机能がはじめて分かってきました。これは、异分野融合を目指す颈颁别惭厂において、糖锁合成化学と1分子イメジングという全く违う分野の2チームが协力して可能となったものです。颈颁别惭厂の设立申请时に研究计画を考えはじめ、9年の歳月をかけて行った研究が结実し、喜びもひとしおです。
概要
ガングリオシドはさまざまな膜受容体の活性制御を行うことが知られていますが、その机构は未だよく分かっていませんでした。
ガングリオシドは天然のままでは见えません。そこで、本研究では蛍光を発する小分子をガングリオシドに结合させて、その蛍光をマーカー(プローブ=探针、と呼びます)として追跡しました。今までの方法では、ガングリオシドの特定の部分に1个だけプローブをつけるのは困难なうえに、プローブ结合によってガングリオシドの机能を损なっていました。今回、研究グループは、蛍光分子とガングリオシドの复合体の全化学的合成に成功し、さらに17种の中から机能を损なわないものを选ぶことで、これらの问题をクリアしたのです。さらに、生细胞の细胞膜中で、蛍光ガングリオシドを1分子イメジングにより可视化し、1分子追跡することで、ガングリオシドの动的な动きを手に取るように见ることができました。
その结果、ガングリオシドが骋笔滨アンカー型受容体とよばれる种类の受容体と细胞膜上で结合したり离れたりする様子を可视化することにも成功し、さらに、この结合には、コレステロールが必要なことを见い出しました。すなわち、これら3种の分子が、会合体を作ることを世界で初めて証明しました。
この発见の画期的なところは、以下の3点です。
- これら3种の分子は细胞膜内で集合して「筏ドメイン」と名付けられるナノドメインを作る可能性がこの25年间疑われてきました。筏ナノドメインは受容体の机能発现やウィルス?毒素などの细胞内侵入に重要という强い意见もあり、生细胞内で本当に存在するかどうかは大きな课题でした。本研究で初めて、これら3种分子を含むナノドメインの存在が証明されました。 ガングリオシドが筏ナノドメインに出入りする様子を1分子ずつ见たり、筏ナノドメインが动く様子を解析することにも成功しました。
- 1.の结果、ガングリオシドは筏ナノドメインを作るという重要な働きがあることが分かりました。
- ガングリオシドは10~50ミリ秒(1秒の1/100~1/20)の时间スケールで筏に入っては出ていくという、きわめて动的な制御がなされていることが分かりました。これによって、なぜいままで、筏ナノドメインが生きている细胞内で见つからなかったかも分かりました。ナノサイズという小ささに加えて、分子がきわめて动的に出入りするので、普通の方法では见えなかったのです。
今回、本研究グループが开発したガングリオシド蛍光プローブによって、さまざまな膜受容体の活性制御机构が明らかになると期待されます。

宿主细胞を囲んで袭っている贬滨痴/エイズ?ウイルスのイメージ図 (Credit:William Roberts / 123rf)
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Naoko Komura, Kenichi G N Suzuki, Hiromune Ando, Miku Konishi, Machi Koikeda, Akihiro Imamura, Rahul Chadda, Takahiro K Fujiwara, Hisae Tsuboi, Ren Sheng, Wonhwa Cho, Koichi Furukawa, Keiko Furukawa, Yoshio Yamauchi, Hideharu Ishida, Akihiro Kusumi & Makoto Kiso
"Raft-based interactions of gangliosides with a GPI-anchored receptor"
Nature Chemical Biology, Published online 04 April 2016
- 京都新聞(4月5日 25面)に掲載されました。