古川壽亮 医学研究科教授、田中司朗 同准教授、Erica S. Weitz アムステルダム大学博士課程学生らの研究グループは、比較的重いうつ病の治療を対象に行われたランダム化比較試験(薬剤などの治療効果がどの程度あるのかを、研究者や対象者の意図を排除して測定する試験手法)の中で、認知行動療法が重度のうつ病の場合でも、軽度のうつと同程度に効果があることを発見しました。
本研究成果は2017年1月19日に、英国王立精神医学会発行の学術誌「The British journal of Psychiatry」に掲載されました。
研究者からのコメント
うつ病に対する有効な精神疗法として认知行动疗法が注目されています。しかし、これまで认知行动疗法の効果は、无治疗群との比较で検讨されることが多く、これでは过大评価されてしまう悬念がありました。それを、抗うつ薬の场合と同様、プラセボ投与群(一见薬と区别は付かないが有効成分が含まれていない锭剤を服用した群)と比较した研究で、はたして认知行动疗法がプラセボ治疗よりもさらに有効であるかどうかを、个人データメタアナリシスという最新のエビデンス统合法を用いて検讨しました。
结果、治疗効果の指标である治疗必要数(治疗によって1人が効果を得るために、治疗を施す必要がある人数を示す指标)に换算すると、重症のうつ病に対しても軽症のうつ病に対しても认知行动疗法は12という値でした。一般的に用いられる抗うつ薬は7から9という値であり、本人の希望によってはどちらの治疗法も合理的な选択肢になりうることが示されました。
概要
认知行动疗法は、ある出来事に対する身体の反応、どのように考えるかという认知、出来事に対して持つ感情、実际に起こる行动という人の反応の四つの侧面の中で、本人が意识してある程度コントロールできる认知と行动に働きかける治疗法です。今回の研究で扱ったうつ病の他、パニック障害や生活パターンが原因となる生活习惯病への応用も试みられています。
治疗前のうつ病の重症度が治疗法の効果へ与える影响を対象にした研究は、これまで抗うつ薬の効果検証を目的として行われてきました。そのため、认知行动疗法とうつ病の重症度の関係に主眼を置いた研究は行われてきませんでした。
そこで本研究グループは、ランダム化比較試験の中で、認知行動療法と有効成分を含まないプラセボ薬(偽薬)との治療効果比較データがある五つの研究をもとに、認知行動療法がどの程度の効果を持つのか解析を行いました。対象とした試験は1989年から2006年までの間に行われており、被験者の平均年齢は40歳前後です。 一定の重症度がありうつ病と診断された509人と、それよりは比較的軽症の抑うつ状態である気分変調症と診断された46人の計555人を対象にデータを解析したところ、認知行動療法は重度のうつ病の場合でも、軽度のうつと同程度に効果があることが分かりました。
加えて、薬物疗法と认知行动疗法との効果の差も、これまで考えられていたほど大きくはないことが分かりました。今后は治疗を受ける本人の意向によっては、うつ病の重さに関わらず认知行动疗法も治疗の选択肢になる可能性があります。
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Toshi A. Furukawa, Erica S. Weitz, Shiro Tanaka, Steven D. Hollon, Stefan G. Hofmann, Gerhard Andersson, Jos Twisk, Robert J. DeRubeis, Sona Dimidjian, Ulrich Hegerl, Roland Mergl, Robin B. Jarrett, Jeffrey R. Vittengl, Norio Watanabe and Pim Cuijpers. (2017). Initial severity of depression and efficacy of cognitive–behavioural therapy: individual-participant data meta-analysis of pill-placebo-controlled trials. The British Journal of Psychiatry.