物質のトポロジカルな性質を光で引き出す -光で電気伝導特性を制御し量子ホール状態を復元-

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有川敬 理学研究科助教、田中耕一郎 同教授、角屋豊 広島大学教授らの研究グループは、光吸収により量子ホール系物質の絶縁性が改善されることを発見し、光による量子ホール状態の制御を実現しました。量子ホール効果とは、電子を平面に閉じ込めた2次元電子系物質のホール伝導率(平面に垂直な磁場がかかった状態で、かけた電場に垂直な方向に流れる電流の大きさを表す物理量)が物理定数で決まる値の整数倍に量子化される現象のことで、良い絶縁体であればその物質の端のみに伝導状態が生まれることで、理想的な量子ホール状態を観察できます。量子ホール状態のような本来物質が備え持つトポロジカル(トポロジー:物の形状の特徴を数字で分類する学問)な性質は、多くの場合電子の不規則な動きによるノイズなどによって見えなくなってしまいます。この発見は、トポロジカルな性質を光によって引き出すことを可能にしたもので、物質のトポロジカルな性質の光制御への第一歩であると言えます。

本研究成果は、2017年4月4日に英国Nature Publishing Groupの発行する「Nature Physics」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

热雑音によって破壊されたトポロジカルな性质を、光によってあたかも治疗するかのような効果を発见できたことは非常に惊きでした。光と物质の相互作用がもたらす効果には想像を超える多様な可能性があり、奥深さを感じます。様々な応用が期待されているトポロジカル物质ですが、この研究によりその可能性がさらに広がることを期待しています。

概要

量子ホール効果は物理学の歴史上非常に重要な现象です。その惊くべき特徴は、物质の种类によらずホール伝导率が非常に正确に普遍的な値をとることです。この普遍性は量子ホール効果発见当时の物理学では理解できず、后にトポロジーの概念の导入につながりました。

トポロジーとは、物の形状の特徴を数字で分类する学问です。例えば、私たちはドーナツとマグカップを别物と考えますが、両者とも一つの穴を持つという意味でトポロジカルには同じ物に分类されます。この例における穴の数のように、形を连続的に変形しても変わらない整数値(トポロジカル不変量)で物を分类します。この考え方を物质の电子状态に适用することで、量子ホール系のホール伝导率がトポロジカル不変量で决まることが分かっています。従って、ドーナツとマグカップのように一见别の物质でも、トポロジカル不変量が同じであれば普遍的なホール伝导率を示すことが理解されています。

ところが、この不思议なトポロジカルな性质は物质の絶縁性が低いと消失してしまいます。従って、いかに物质の絶縁性を高めるかが重要です。量子ホール系の场合はこれまで、より良质な结晶を作成し、极低温で高磁场をかけることで絶縁性を高めていました。これは电子の平衡状态に限れば絶縁性を高める唯一の方法ですが、光を照射し非平衡な电子状态を利用して絶縁性を高めるという手法は、これまで考案されてきませんでした。

そこで本研究グループは、典型的な量子ホール効果を示すヒ化ガリウム(骋补础蝉)の2次元电子系に対して光でエネルギーを与え(以下、光励起)、电気伝导特性がどのように変化するかを调べました。実験开始时点での试料の温度と用いた磁场の强さでは、平衡状态における絶縁性は低く、量子ホール効果が消失しかかっている状况を作ったうえで実験を行いました。特定の电子状态を作り出すため、光励起にはテラヘルツ波と呼ばれる10 12 贬锄程度の振动数を持つパルス光を用いました。

その结果、テラヘルツ波による励起が行われると、电気伝导率が一旦上昇した后减少し、物质の絶縁性が増していることがわかりました。また、絶縁性が増している时间领域でホール抵抗率(ホール伝导率の逆数)が普遍的な量子化値に近づいていることもわかりました。これは、絶縁性の改善によりトポロジカルな性质が回復していることを表しています。光照射后の非平衡状态でも絶縁性が良ければ物质のトポロジカルな性质が现れることを、初めて実験的に示しました。

図:テラヘルツ波照射による电気伝导率の変化とホール抵抗率の変化。上のグラフの电気伝导率が减少している间、下のグラフのホール抵抗率が量子化値に戻る様子が観测されている。

详しい研究内容について

书誌情报

【顿翱滨】

Arikawa, T., Hyodo, K., Kadoya, Y., and Tanaka, K. (2017). Light-induced electron localization in a quantum Hall system. Nature Physics, 13, 688-692.