上田佳代 工学研究科准教授、小島淳 熊本大学特任准教授、道川武紘 国立環境研究所主任研究員らの研究グループは、工学院大学、国立循環器病研究センターと共同で、熊本大学が熊本県内の医療機関や熊本県との協力の下で実施している、急性心筋梗塞登録事業のデータを利用した環境疫学研究を行い、アジア大陸の砂漠域に由来する黄砂が心筋梗塞の発症と関連していることを明らかにしました。
本研究成果は、2017年8月29日に循環器専門誌「European Heart Journal」に掲載されました。
研究者からのコメント
私たちは、环境卫生、医学、大気环境分野にまたがる共同研究で、黄砂曝露と急性心筋梗塞発症との関係性を明らかにしました。また、慢性肾臓病などの背景因子があると、黄砂の影响を受けやすくなる可能性を示したのは世界初です。私たちは、今后さらに研究を进めて、黄砂や大気环境による健康影响の予防につなげていきたいと考えています。
概要
アジア大陆の砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)にある黄砂が风で舞い上がり、季节风に乗って日本へ长距离输送されてくることがあります。输送途中で大気汚染物质や微生物などが付着してくることから、黄砂曝露(ばくろ)による健康影响が悬念されており、日本において黄砂飞来后にアレルギー疾患、呼吸器疾患、循环器疾患が増加したということが报告されています。中でも循环器疾患は発症すると生命に関わる场合が多いので、黄砂と循环器疾患の関连について详细な検讨を行い、黄砂の影响で循环器疾患が発生しやすくなるような背景要因を明らかにしていくことが课题でした。
本研究グループは、循环器疾患の中でも急性心筋梗塞に注目しました。黄砂が比较的多く観测される九州地方の中でも、熊本県内で発症した急性心筋梗塞を网罗的に登録している「熊本急性冠症候群研究会」のデータベースを用いて、黄砂と急性心筋梗塞発症との関连を解析しました。データベースには急性心筋梗塞患者の背景要因(年齢、性别、高血圧、糖尿病、脂质异常症、喫烟、慢性肾臓病など)も登録されており、どのような背景があると黄砂の影响を受けやすいのかについても検讨が可能です。
解析の结果、黄砂が観测された翌日に急性心筋梗塞を発症するオッズ比(相対危険度の近似値)は1.46(95%信頼区间1.09-1.95)であり、黄砂が観测された后に急性心筋梗塞患者が増えるという関连性が明らかになりました。この関连性は、微小粒子状物质(笔惭 2.5 )、光化学オキシダント、二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物质の影响を考虑しても変わりませんでした。また、患者の背景要因で群分けを行った上で黄砂と心筋梗塞との関连性を検讨したところ、75歳以上の高齢者、男性、高血圧、糖尿病、非喫烟者(※)、慢性肾臓病で、黄砂と急性心筋梗塞発症に関连性があることがわかりました。中でも、慢性肾臓病のある方は、ない方と比べて有意に黄砂の影响を受けて急性心筋梗塞を起こしやすいという结果でした。
(※)本研究では、黄砂の影响を受けて急性心筋梗塞を起こしやすくするような背景要因について検讨を行い、非喫烟者の方が黄砂の影响を受けやすい可能性を示しましたが、黄砂による急性心筋梗塞の発生予防として喫烟を荐めるものではありません。
図:心筋梗塞発症前日の黄砂と心筋梗塞との関连に関する背景要因による群分けの结果(オッズ比が高いほど心筋梗塞のリスクが高いことを示す)
*心筋梗塞当日および2~5日前の黄砂、気温、湿度で调整
**慢性肾臓病の有无により统计学的に有意に黄砂と急性心筋梗塞との関连が异なる
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Sunao Kojima, Takehiro Michikawa, Kayo Ueda, Tetsuo Sakamoto, Kunihiko Matsui, Tomoko Kojima, Kenichi Tsujita, Hisao Ogawa, Hiroshi Nitta, Akinori Takami (2017). Asian dust exposure triggers acute myocardial infarction. European Heart Journal, 38(43), 3202-3208.
- 産経新聞(9月5日 24面)に掲載されました。