斎藤通紀 医学研究科教授、小島洋児 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)特定拠点助教らの研究グループは、ゲノム編集技術を用いて遺伝子を欠失させたヒトiPS細胞を作製し、精子や卵子の元となる始原生殖細胞への分化における6種類の遺伝子の役割を特定しました。その結果、マウスでの始原生殖細胞への分化とは異なる機構が判明し、ヒトに特異的な分子機構が明らかになりました。
本研究成果は、2017年10月6日午前1時に米国の学術誌「Cell Stem Cell」に掲載されました。
研究者からのコメント
左から、斎藤教授、小岛特定拠点助教
本研究では、颈笔厂细胞から始原生殖细胞様细胞への分化系を用いて、ヒトの生殖细胞への运命决定の分子机序を明らかにしました。兴味深いことに、哺乳类のモデルとして用いられるマウスの生殖细胞発生とは、関与する遗伝子やそれぞれの遗伝子の机能などに大きな差があることも分かりました。始原生殖细胞から精子や卵子に至るには、まだ数多くの生殖细胞にしか见られない重要なプロセスがありますが、今回の成果によりヒトの生殖细胞分化の基盘となる情报が得られました。今后も一つずつ机序を明らかにし、いずれは生殖细胞异常による不妊や先天性疾患の発症机序の解明につながるよう、研究を推进したいと考えています。
本研究成果のポイント
- ゲノム编集により6种类の遗伝子ノックアウトヒト颈笔厂细胞株を树立
- それぞれの遗伝子が精子や卵子の元となる细胞への分化のどの时点で必要となるか特定
- マウスと异なるヒト独特の运命决定机构を解明
概要
哺乳类の生殖细胞研究は、主にマウスを用いて発展してきました。本研究グループはこれまでに、マウス胚での研究を元に、世界に先駆けてマウス多能性干细胞から始原生殖细胞様细胞(多能性干细胞から试験管内で诱导した、始原生殖细胞の特徴を持つ细胞)を作成しました。一方で、ヒトの生殖细胞への分化は着床后の受精后2週目顷に起こるため、生体を用いた研究は技术的にも伦理的観点からも困难です。近年、ヒト颈笔厂细胞から始原生殖细胞様细胞へと分化する手法が开発され、ヒトでもこの时期の胚を使用せずに生殖细胞の初期発生过程を再现できるようになりました。
本研究では、ヒト颈笔厂细胞に「クリスパー?キャス9」というゲノム编集技术を用い、生殖细胞の発生に関わる可能性のある遗伝子を欠失させたノックアウト颈笔厂细胞株を作製しました。これらの细胞株を始原生殖细胞様细胞に分化させた际、遗伝子発现がどのように変动するかを追跡し、それぞれの遗伝子の机能を特定しました。その结果、マウスの始原生殖细胞の発生とは必须の遗伝子が异なり、それぞれの机能や発现する顺序も异なることが分かりました。マウスで最も早く発现し、生殖细胞系列への运命决定に必须の T 遗伝子はヒトでは不要で、他の生物种では生殖细胞分化への関与が知られていない EOMES 遗伝子が重要な役割を担っていることが分かりました。またマウスの生殖细胞分化に必须の TFAP2C と BLIMP1 遗伝子も、マウスとヒトとでは异なる働き方をしていることも见出しました。
ヒトの生殖细胞発生の入口に相当する时期のメカニズムが明らかになったことで、これ以降の生殖细胞の発生?分化研究や、生殖细胞の形成异常による数多くの疾患発症に関する研究を进めるうえで、基盘となる知见であると期待されます。
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Yoji Kojima, Kotaro Sasaki, Shihori Yokobayashi, Yoshitake Sakai, Tomonori Nakamura, Yukihiro Yabuta, Fumio Nakaki, So Nagaoka, Knut Woltjen, Akitsu Hotta, Takuya Yamamoto, Mitinori Saitou, (2017). Evolutionarily Distinctive Transcriptional and Signaling Programs Drive Human Germ Cell Lineage Specification from Pluripotent Stem Cells. Cell Stem Cell, 21(4), 517-532.
- 京都新聞(10月6日 33面)、産経新聞(10月7日 22面)、日刊工業新聞(10月6日 3面)、日本経済新聞(10月6日 46面)および科学新聞(10月27日 6面)に掲載されました。