木庭啓介 生態学研究センター教授、小山里奈 情報学研究科准教授、XueYan Liu 天津大学教授、稲垣善之 森林研究?整備機構森林総合研究所主任研究員、保原達 酪農学園大学教授らの研究グループは、硝酸イオンの窒素酸素安定同位体測定技術を使って、ツンドラ植物にとって温帯の植物と同じく土壌中の硝酸イオンが重要な窒素源であることを明らかにしました。
本研究成果は、2018年3月14日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
左から、木庭教授、小山准教授
窒素の循环は植物の光合成に大きな影响を与えるので大変重要ですが、窒素の动きを捉えることが难しく、现在でも理解が足りていません。本研究では、植物にとって窒素が大変足りないツンドラ生态系で、通常の方法ではほとんど観测されない硝酸イオンという窒素が、実は大事な窒素源であることを、植物体内にほんの少し残された硝酸イオンの同位体比という特徴などから明らかにしました。在るもの、见えるものだけでなく、见えないくらい活発に动いているものが実は大事である、ということは当たり前のように思えますが、その証拠(まだ完璧からは程远いものですが)を得るのに约20年かかりました。
概要
ツンドラ生态系は极地域に広がる生态系で、植物や微生物が利用できる窒素が特に少ない生态系として知られています。これまで、植物の窒素源はどの形态の窒素であるかについて研究が行われてきました。植物が利用できる窒素はアンモニウムイオン(狈贬 4 + )や硝酸イオン(狈翱 3 - )と古くから考えられてきましたが、90年代に溶存有機態窒素(DON)が重要な窒素源であることが明らかになりました(Chapin et al. 1993, Nature)。この大きな発見もあって、植物の窒素源判定に関する研究はその後DONとNH 4 + に集中し、もう一つの窒素源であるはずの狈翱 3 - については、ツンドラ土壌では生成されず、植物にとって重要ではないと考えられてきました。
そこで本研究グループは、「ツンドラ生态系では狈翱 3 - も重要な窒素源ではないか?土壌中で狈翱 3 - は生成されると同时に消费されているだけで「见えない」だけではないか?」という仮説を立て、最新の浓度?同位体比测定技术を駆使して検証しました。その结果、土壌中での狈翱 3 - 生成(硝化)があり、その硝化で生成された狈翱 3 - をツンドラ植物が吸収同化(つまりは利用)しているということが明らかになりました。ツンドラ植物にとって见えない狈翱 3 - が実は重要な窒素源であったことが示唆されることとなりました。
図:本研究で明らかになったツンドラ生态系の窒素循环
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Xue-Yan Liu, Keisuke Koba, Lina A. Koyama, Sarah E. Hobbie, Marissa S. Weiss, Yoshiyuki Inagaki, Gaius R. Shaver, Anne E. Giblin, Satoru Hobara, Knute J. Nadelhoffer, Martin Sommerkorn, Edward B. Rastetter, George W. Kling, James A. Laundre, Yuriko Yano, Akiko Makabe, Midori Yano and Cong-Qiang Liu (2018). Nitrate is an important nitrogen source for Arctic tundra plants. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(13), 3398-3403.
- 京都新聞(3月19日夕刊 8面)に掲載されました。