松田建児 工学研究科教授、廣瀬崇至 同助教、中莖祐介 同修士課程学生、宮坂博 大阪大学教授、五月女光 同助教の研究グループは、π(パイ)拡張ヘリセン-らせん状ナノグラフェン分子の合成に世界で初めて成功しました。この分子は、分子スケールエレクトロニクスにおいてはインダクション(誘導)コイルとして、ナノメカニクスにおいてはスプリング(ばね)として働くことが期待されるものです。
本研究成果は、2018年3月19日午後1時にアメリカ化学会が発行する学術誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に公開されました。
研究者からのコメント
左から、松田教授、广瀬助教、中茎修士课程学生
本研究で世界で初めて合成されたらせん状ナノグラフェンは、分子全体に広がったフロンティア轨道がらせん形状を持つことから、これまでにない有机分子材料として极めて兴味深いものです。この分子は、4年にわたる非常に多くの试行错误の结果合成に成功したものであり、私たちの研究室の汗と涙の结晶です。本研究を契机としてらせん状グラフェンの研究が本格的に始まり、新しい物性が次々见つかってくれると、これ以上ない喜びです。
概要
グラフェンは、原子レベルの薄さのシート状の物质で、ベンゼン环がつながった蜂の巣状六角形格子构造を持ち、优れた电荷および热伝导特性を示します。その部分构造である多环芳香族炭化水素は、ナノグラフェンと呼ばれ、バンドギャップ(结晶中の电子が存在し得ない禁制帯のエネルギー幅)を制御した半导体材料や、可视および近赤外光に応答する光机能材料として用いられており、その合成法、计算科学を用いた分子设计、固体状态での分子の配列などが近年盛んに研究されています。
一方で、グラフェンをらせん状にねじったらせん状グラフェンは、ヘリコイドと呼ばれるらせん面构造を有することにより、 电磁诱导により起电力を発生させる インダクションコイルとしての电気的特性、分子スケールのスプリングとしての机械的特性が期待されている物质ですが、合成されたことはなく理论上のものでした。
ベンゼン环を二つの置换基が隣り合うオルトの位置で缩环してできる、らせん构造を持つヘリセン分子は、ある3次元构造がその镜像と重ね合わせることができない性质を分子が持つことによって现れるキラル光学特性が盛んに研究されてきた、光学活性な化合物です。しかし、そのπ共役系はらせん轴に対して垂直方向には広がっておらず、らせん面构造を持つらせん状グラフェンのモデル化合物として适したものではないため、らせん状グラフェンのモデル化合物はこれまで合成されていませんでした。
本研究グループは、[7]ヘリセン分子の6か所のペリ位にベンゼン环を缩环し、ヘリセンのらせん轴に対して垂直方向にπ共役系を拡张した分子「ヘキサ-ペリ-ヘキサベンゾ[7]ヘリセン」の合成に成功しました。この合成は、マクマリーカップリング、光环化脱水素化反応、脱水素芳香族化反応を键反応とし、α-テトラロンを出発原料として9段阶で行ったものです。この分子は、今まで合成されていなかったらせん状グラフェンのモデル化合物であり、「らせん状ナノグラフェン」と呼ぶべき分子です。

図:らせん状グラフェンの构造。今回合成したらせん状ナノグラフェンを太线(赤)で表している。
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Yusuke Nakakuki, Takashi Hirose, Hikaru Sotome, Hiroshi Miyasaka, and Kenji Matsuda (2018). Hexa-peri-hexabenzo[7]helicene: Homogeneously π-Extended Helicene as a Primary Substructure of Helically Twisted Chiral Graphenes. Journal of the American Chemical Society.
- 日刊工業新聞(3月20日 25面)に掲載されました。