早川卓志 霊長類研究所特定助教は、オーストラリア博物館が指揮する『コアラゲノム?コンソーシアム』に参加しました。本コンソーシアムはコアラの全ゲノム配列を解読することに成功しました。主食とするユーカリの毒を識別し、解毒するための能力など、コアラが持つユニークな生態の遺伝的背景を解明し、保全を目的とした遺伝的多様性の評価を実施しました。
本研究成果は、2018年7月3日に英国の科学誌「Nature Genetics」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
野生の霊长类のいないオーストラリアという国で、どのように哺乳类が进化したのか。そういった视点を持って、オーストラリアを访ね、现地の研究者と意気投合したことが今回の研究のきっかけです。本研究はオーストラリア博物馆が指挥する「コアラゲノム?コンソーシアム」のメンバーとしておこなった、国际共同研究の成果になります。
私が担当した解析はコアラの味覚です。毒のある食べ物に动物は苦味を感じます。特に叶っぱを食べる动物は、叶っぱに含まれている毒を苦味感覚で検出して、なるべく毒の少ない叶っぱを选ぶ必要があります。コアラもそうで、コアラゲノムには、他の有袋类に比べて多くの苦味受容体遗伝子が含まれていました。こうやって苦味受容体遗伝子の数が増える进化は、植物食の倾向が强い霊长类の仲间にも起きています。私たちが食卓で多様な野菜を口にできるのも苦味受容体の进化が関係しています。
今回の発见を土台にして、今后、ユーカリに适応したコアラの遗伝子が実际にどのようにユーカリの毒に応答しているのか、そして私たち霊长类の仲间とどのように平行进化しているのか、探っていきたいと思います。
概要
爱らしい颜かたちをしたコアラは、母亲のお腹の袋で育つ有袋类の仲间で、オーストラリア东部に生息し、有毒なユーカリの叶を専门に食べる不思议な生态を持っています。オーストラリアでも日本でも人々に爱されているコアラですが、生息地の减少や感染症の流行によって絶灭が危惧されています。
本研究グループは、そのコアラの全ゲノム配列の解読に成功しました。さらに、コアラが持つユニークな生态の遗伝的背景を解明し、保全を目的とした遗伝的多様性の评価を実施しました。
コアラは肠内细菌によって有毒なユーカリを分解していることが知られていましたが、その遗伝的背景は详しくわかっていませんでした。本研究では、コアラゲノムを解析した结果、コアラは食べ物中の毒を苦味として舌で感じる苦味受容体(罢础厂2搁)という遗伝子を、他の有袋类に比べて多く持っていることがわかりました。また、嗅覚受容体(痴1搁)や、解毒代谢酵素(颁驰笔)にも特徴があり、コアラは食べられるユーカリを识别する味覚?嗅覚と、摂取后も解毒できる酵素をゲノムレベルで进化させたと结论づけられました。また、コアラの生态や保全に関连する多くの遗伝子が同定され、个々の遗伝子の解析结果をベースとした今后のコアラ研究の発展が期待されます。

写真:ユーカリの树の上で生活する野生のコアラ。全ゲノム配列が解読され、コアラのユニークな生态の遗伝基盘や、遗伝的多様性が明らかにされた。(写真提供:早川卓志)
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
【碍鲍搁贰狈础滨アクセス鲍搁尝】
Rebecca N. Johnson, Denis O'Meally, Zhiliang Chen, Graham J. Etherington, Simon Y. W. Ho, Will J. Nash, Catherine E. Grueber, Yuanyuan Cheng, Camilla M. Whittington, Siobhan Dennison, Emma Peel, Wilfried Haerty, Rachel J. O'Neill, Don Colgan, Tonia L. Russell, David E. Alquezar-Planas, Val Attenbrow, Jason G. Bragg, Parice A. Brandies, Amanda Yoon-Yee Chong, Janine E. Deakin, Federica Di Palma, Zachary Duda, Mark D. B. Eldridge, Kyle M. Ewart, Carolyn J. Hogg, Greta J. Frankham, Arthur Georges, Amber K. Gillett, Merran Govendir, Alex D. Greenwood, Takashi Hayakawa, Kristofer M. Helgen, Matthew Hobbs, Clare E. Holleley, Thomas N. Heider, Elizabeth A. Jones, Andrew King, Danielle Madden, Jennifer A. Marshall Graves, Katrina M. Morris, Linda E. Neaves, Hardip R. Patel, Adam Polkinghorne, Marilyn B. Renfree, Charles Robin, Ryan Salinas, Kyriakos Tsangaras, Paul D. Waters, Shafagh A. Waters, Belinda Wright, Marc R. Wilkins, Peter Timms, Katherine Belov (2018). Adaptation and conservation insights from the koala genome. Nature Genetics, 50(8), 1102-1111.
- 朝日新聞(7月3日 33面)、京都新聞(7月3日 29面)および読売新聞(7月4日 33面)に掲載されました。
関连リンク
- 「コアラゲノムコンソーシアム(オーストラリア博物馆)」