早川卓志 霊長類研究所特定助教と松田一希 中部大学准教授らの研究グループは、海外の動物園、研究機関と共同で、テングザルの前胃の内容物に含まれている細菌のDNA配列を網羅的に解析し、そこに共生する細菌叢を同定することに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、2018年7月11日微生物学の国際専門学術誌「Environmental Microbiology Reports」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
野生の霊长类の前胃内微生物丛の全体像について世界で初めて报告しました。森林植生、霊长类の食物、共生微生物丛の多様性が紧密に関连しているという、保全生物学上も重要な知见を示すことができました。本研究の実现には、霊长类が生息する热帯の国々において、动物の命を危険にさらすことなく捕获し、胃内容物を採取するという困难な手続きを克服する必要がありました。现地のマレーシア政府とともに10年以上にわたって展开してきたテングザル研究を背景に、野生生物局の獣医チームと动物の安全确保、伦理面などを慎重に协议して実施しました。现地政府との信頼関係と、地道な长期野外调査が実を结んだ产物であるという意味でも、たいへん嬉しい成果です。
概要
テングザルは、东南アジアのボルネオ岛の沿岸部から川沿いに広がる密林にのみ生息する絶灭危惧种で、长い鼻と大きな太鼓腹が特徴です。その太鼓腹には、反すう动物と类似した复胃と呼ばれる4つにくびれた特殊な胃がおさまっており、霊长类で唯一、反すう行动が観察されています。テングザルは、この胃に共生する微生物群(细菌丛)を使って、叶に含まれる繊维を発酵?分解してエネルギーに変换できることが知られています。
本研究グループは、长期にわたる野外観察によって、生活环境の异なる6头の大人のテングザルのオスから前胃の内容物を採取しました。そして、その内容物に含まれている细菌の顿狈础配列を次世代シーケンサーを使って网罗的に解析した结果、多様な细菌丛を同定することに世界で初めて成功しました。
さらに、テングザルが生活环境との相互作用によって、环境に适した细菌丛を胃の内部に育んでいることも明らかになりました。具体的には、食べ物となる植物の多様性が高い、豊かな森に住むテングザルほど、细菌丛がより多様化していました。一方、饵付けした群れや饲育个体の前胃内には、ヒトが食べるような食べ物の消化に必要と思われる菌种が共生し、菌丛のヒト化が観察されました。
今后は、宿主である霊长类と、消化管内の微生物丛が、生态?环境との相互作用によってどのように共进化してきたのか、さらなる解明を推进していく予定です。
図:テングザルの雄の体重は約20キロ、雌はその半分くらいの重さしかありません。長く大きな鼻に加えて大きな太鼓腹が特徴的なサルです。(写真提供:中部大学 松田一希)
详しい研究内容について
书誌情报
【顿翱滨】
Takashi Hayakawa, Senthilvel K.S.S. Nathan, Danica J. Stark, Diana A. Ramirez Saldivar, Rosa Sipangkui, Benoit Goossens, Augustine Tuuga, Marcus Clauss, Akiko Sawada, Shinji Fukuda, Hiroo Imai, Ikki Matsuda (2018). First report of foregut microbial community in proboscis monkeys: Are diverse forests a reservoir for diverse microbiomes?. Environmental Microbiology Reports, 10(6), 655-662.
- 日本経済新聞(9月9日 30面)に掲載されました。