神経細胞のオートファジー機能の低下と精神疾患との関連を実証 -精神疾患の新たな治療戦略の開発に期待-

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友田利文 医学研究科特定准教授(現?トロント大学)、櫻井武 同特定教授、住友明子 同特定研究員(現?カナダ?薬物依存?精神衛生センター博士研究員)、疋田貴俊 大阪大学教授らの研究グループは、米国ジョンズホプキンス大学と共同で、神経細胞のオートファジー機能の低下が、ヒトの精神疾患に類似の行動異常をマウスで引き起こすこと、また、これらの行動異常はオートファジーの機能を活性化することにより改善すること、さらにオートファジーの機能低下がヒトの精神疾患で実際に確認されることを実証しました。

本研究成果は、2018年6月8日に米国の科学雑誌「Human Molecular Genetics」、および同年8月15日に米国の科学雑誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

精神疾患の理解は、过去数十年の神経科学の进展に支えられ、记载学の范畴を脱し、生物学的基盘の探求へと大きくシフトしてきました。しかし同じ期间に成し遂げられた身体疾患の病态の理解およびそれに基づいて考案された治疗法と比较すると、精神疾患のそれらは未だ暗黒时代を彷徨している感があります。私たちは、精神という観念的な难しさは承知しつつも、どこまで唯物论的に精神を理解できるかという问题に挑戦することの先に意外な突破口やより効果的な治疗法を见出せると信じて研究を进めているつもりです。

今回発表することとなった知见は、端的にいうと、精神症状のある侧面は、身体疾患となんら変わりはないことを示しており、机能の低下した神経细胞、神経回路をどうしたら回復させられるかのアイデアの一つをモデル动物を使って示したものです。より具体的には、オートファジーというヒトの全身の细胞の生存にとって重要なクリアランス机构が、神経细胞においても同様のクリアランス机能を果たすことを通して、个々の神経细胞のみならずネットワークとしての神経回路网の机能、ひいては脳の高次机能をサポートしており、认知机能异常をはじめとする精神症状の表出を抑制していることを示唆しています。

これがどの程度一般化できる理论なのか、ヒトの精神疾患のサンプルを解析することで今后さらなる検証を进める计画ですが、现在までに、统合失调症や双极性障害、染色体微细欠失による精神疾患の発现などとの関与が示唆されて来ました。これまでにない精神疾患の治疗戦略を考案すべくさらに研究を进めて行きたいと思います。

概要

本研究グループは、先行研究から、オートファジー(细胞内に不要な物质や小器官が蓄积するのを防ぐ细胞内分解机构)が低下したモデルマウスであっても、神経细胞死が起きない场合があることを见出していました。そこで、本研究ではこのモデルマウスの行动を详细に解析し、ヒトの精神疾患と类似の症状がないか検讨しました。その结果、神経细胞のオートファジー机能の低下が、ヒトの精神疾患に类似する行动异常をマウスで引き起こすこと、これらマウスでの行动异常はオートファジーの机能を活性化することにより改善すること、さらにオートファジーの机能低下がヒトの精神疾患で実际に确认されることが见出されました。

本研究成果により、ヒトの精神疾患の中に、オートファジーの机能低下によって引き起こされるものが存在することが示唆されます。本研究成果は、统合失调症等の精神疾患の原因の一つを解明したことに加えて、オートファジーの机能低下を标的とした精神疾患の新たな治疗戦略の开発につながることが期待できます。

図:本研究のイメージ

详しい研究内容について

书誌情报1

【顿翱滨】

【碍鲍搁贰狈础滨アクセス鲍搁尝】

Akiko Sumitomo, Kouta Horike, Kazuko Hirai, Nancy Butcher, Erik Boot, Takeshi Sakurai, Frederick C. Nucifora Jr., Anne S. Bassett, Akira Sawa and Toshifumi Tomoda (2018). A mouse model of 22q11.2 deletions: Molecular and behavioral signatures of Parkinson’s disease and schizophrenia. Science Advances, 4(8):eaar6637.

书誌情报2

【顿翱滨】

Akiko Sumitomo, Hiroshi Yukitake, Kazuko Hirai, Kouta Horike, Keisho Ueta, Youjin Chung, Eiji Warabi, Toru Yanagawa, Shiho Kitaoka, Tomoyuki Furuyashiki, Shuh Narumiya, Tomoo Hirano, Minae Niwa, Etienne Sibille, Takatoshi Hikida, Takeshi Sakurai, Koko Ishizuka, Akira Sawa, Toshifumi Tomoda (2018). Ulk2 controls cortical excitatory–inhibitory balance via autophagic regulation of p62 and GABAA receptor trafficking in pyramidal neurons. Human Molecular Genetics, 27(18), 3165-3176.