杉村薫 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点准教授と井川敬介 同特定研究員は、卵から成体へ生き物が形づくられる個体発生過程における、新しい力感知(細胞が組織から受ける力の強さや方向性を感知すること)と、力抵抗(細胞が組織引張り応力に壊されることなく配置を変えること)のメカニズムを発見しました。
本研究成果は、2018年9月10日に、英国の科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
个体発生では、组织が时空间的に精緻に制御された変形を繰り返すことで、生き物が形づくられます。このとき、细胞はおしくらまんじゅうのように互いに押し合いへしあいしながら、力を掛け合っています。细胞が作りだした力が组织を変形させる仕组み(力生成)については、この十年ほどで理解が大きく进んできました。今回の研究では、これまでほとんど手がつけられていなかった、细胞が组织応力の强さや方向を感知する仕组み(力感知)と细胞が组织応力に壊されることなく动的に并び换わる仕组み(力抵抗)を明らかにできました。
机械的な力が自然界に存在する多种多様な生き物の形を生みだす过程には、まだまだたくさんの谜が残されており、今回の研究成果は、ヒトを含む他の生物种や细胞分裂などの个体発生の他の现象への応用が期待されます。
概要
卵から成体へ生き物が形づくられる过程を个体発生と言い、その个体発生过程では、组织が时空间的に精密に制御された変形を繰り返します。このとき、一つ一つの细胞に注目すると、细胞がお互いの位置関係を変える「细胞配置换え」が起きています。最近の研究から、ショウジョウバエ翅(はね)上皮などで组织引张り応力が细胞配置换えの方向を决めることがわかってきました。しかし、力感知や力抵抗のメカニズムは谜のままでした。
本研究グループは、細胞骨格を構成するアクチンに結合するタンパク質であるAIP1(Actin interacting protein 1)とコフィリンが翅上皮の細胞配置換えにおける力感知と力抵抗を担うことを発見しました。AIP1はコフィリンを介して組織引張り応力を感知して、特定方向の細胞接着面に局在します。さらに、AIP1とコフィリンはアクチン細胞骨格や細胞間接着の再編成を調節して、組織引張り応力と直交する向きの細胞間接着面に機械的な負荷に対する強度を与え、その結果、細胞が正しい向きに並びかえられることが明らかになりました。
図:组织にかかる引张り力を细胞が感知すると、细胞の配置换えが起こる。础滨笔1とコフィリンが、细胞间接着の安定性を维持し、细胞配置换えを促进する。
详しい研究内容について
书誌情报
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Keisuke Ikawa & Kaoru Sugimura (2018). AIP1 and cofilin ensure a resistance to tissue tension and promote directional cell rearrangement. Nature Communications, 9, 3295.