朝長啓造 ウイルス研究所教授、本田知之 同助教、惣福梢 医学研究科博士後期課程学生らの研究グループは、ヒトゲノムに組み込まれたRNAウイルス由来配列がヒト遺伝子の発現を変化させることを発見しました。さらに、このウイルス由来配列の詳しい発現解析から、ヒトゲノムにはRNAウイルス由来配列の発現を抑える仕組みがあることを証明しました。
本研究成果は、2015年8月28日(日本時間)付の国際学術雑誌「Cell Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
左から朝长教授、本田助教、惣福博士后期课程学生
本研究では、ヒトゲノムに存在する内在性搁狈础ウイルス配列の発现が、周辺遗伝子の転写を制御することを明らかにしました。これは、ヒトが进化の过程で、搁狈础ウイルスの遗伝子配列を取り込み、それを利用している可能性を示した初めての报告となります。これまで、ゲノム进化の原动力として、レトロウイルス感染が重要な役割を持つことが知られていました。本研究により、さらに非レトロウイルス型の搁狈础ウイルス感染も、ゲノム进化のキープレイヤーであることが示されました。今后は、内在性搁狈础ウイルス配列の机能、特にこれらの配列による抗ウイルス防御作用について解析することで、ウイルスと生物の共进化について新しい概念が提唱できるものと期待されます。
概要
生物は、感染したウイルス遗伝子をゲノムに组み込むことで进化してきたと考えられています。これまでに、生物のゲノムに组み込まれたウイルス遗伝子の生物ゲノムへの影响は、レトロウイルス以外では知られていませんでした。これまで研究グループでは、レトロウイルス以外の搁狈础ウイルスであるボルナウイルスが、ヒトをはじめとする多くの生物ゲノムに内在化していることを明らかにしていました。
本研究はまず、生物ゲノムに组み込まれている搁狈础ウイルス由来配列の详しい発现様式を明らかにした初の报告として意味があります。また、ヒトゲノムに存在する七つの内在性ボルナウイルス配列「丑蝉贰叠尝狈」がそれぞれの臓器で异なる発现を示すこと、そして特定の丑蝉贰叠尝狈では精巣以外での発现が抑えられていることを発见しました。さらに、発现が抑えられている丑蝉贰叠尝狈の発现を人工的に上昇させることで、近接する遗伝子の発现量が変化することを証明しました。これは、ゲノムへの影响が谜であった搁狈础ウイルス由来配列の宿主ゲノム进化への関与を示す画期的な発见であり、ウイルスと宿主である人类が互いに関连し合って进化してきた「共进化」を解明する新しい手掛かりになると期待されます。また宿主细胞における内在性ボルナウイルスの発现制御および発现产物の机能の解明は新しいウイルス防御法の発见にもつながると期待されます。

丑蝉贰叠尝狈-1による近傍遗伝子の発现制御
脱アセチル化酵素阻害により丑蝉贰叠尝狈-1领域からの転写が活性化された。それに伴い、丑蝉贰叠尝狈-1下流の遗伝子の発现が抑制された。
详しい研究内容について
书誌情报
[DOI]
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Kozue Sofuku, Nicholas F. Parrish, Tomoyuki Honda, Keizo Tomonaga
"Transcription Profiling Demonstrates Epigenetic Control of Non-retroviral RNA Virus-Derived Elements in the Human Genome"
Cell Reports 12, Published Online: August 27, 2015